新潮流「デジタルソリューション」/住友ゴム、将来を見据えた管理サービスへ

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カテゴリー: タイヤ事業戦略, 特集

 「CASE」、「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)といった自動車業界の変革が進む中、タイヤメーカーはITを駆使してタイヤビジネスの現場を革新しようとしている。住友ゴム工業は従来のタイヤ販売にとどまらず、TPMS(タイヤ空気圧管理システム)を活用したソリューションの展開や、デジタルツールを用いて得られる様々なデータを利用したシステムの構築に取り組んでいる。その一環として、2019年5月にIoT開発企業2社と基本業務提携を締結し、2020年9月には九州地区でタイヤ空気圧ソリューションの実証実験をスタートさせた。タイヤ管理の未来を見据えた最前線の取り組みと今後の展望を聞いた。

将来を見据えたタイヤ管理サービスへ

 住友ゴムが2019年に開発を始めたデジタルツールを用いたタイヤ管理ソリューション――同社が掲げるタイヤ開発および周辺サービス展開のコンセプトである「SMART TYRE CONCEPT」(スマートタイヤコンセプト)に基づいて推進しているものだ。

 「スマートタイヤコンセプト」は2017年秋に開催した「東京モーターショー」で発表し、未来のモビリティ社会で求められる高いタイヤ性能を開発するための技術開発コンセプト。モーターショーのプレスカンファレンスに登壇した池田育嗣社長(当時)は、「自動車産業を取り巻く環境が大きく変化する中、更に高い安全性能と環境性能を実現し、これまでとは一線を画した新しいタイヤを開発する」と力を込めて話していた。

 その後、2019年にはこのコンセプトを包括する形で「ソリューションサービス」の領域を追加。デジタル技術を用いて得られるデータを利用して新たなソリューションの創出を推進していく方針を打ち出した。

 「安全・利便性・経済性のニーズに応えていくこと」――これが住友ゴムの掲げるソリューションの軸となる。ドライバーの安全のために走行中のタイヤの状態を常に適正な状態に保ち、そこにデジタルツールを活用して点検管理の効率化や整備作業の負荷を軽減する。さらに、燃費やライフを向上させてユーザーの経費削減や経営効率改善につなげていくことが基本的な考え方だ。

効率性向上、作業時間9割減も

TPMSを装着した状態
TPMSを装着した状態

 タイヤ空気圧管理ソリューションは、自動車向けIoTサービスの開発・販売を行うトライポッドワークス、TPMSなどセンサーの開発を手掛ける台湾のSYSGRATION(シスグレーション)社とタッグを組んで開発に着手した。このシステムは一見すると未来を見据えたものだが、出発点は今ある課題を解決するためのものと言えそうだ。

 一つは空気圧不足のまま使用している車両がここ数年減っていかないことへの対応策だ。オートモーティブシステム事業部ソリューションビジネスチームの寺本雅紀氏は、「当社が昨年10月に行ったタイヤ点検活動では約2割の車両でタイヤが空気圧不足の状態だが、適正に管理すればタイヤが持つ本来の低燃費性能、ライフ性能を発揮できる」と話す。

 また、「現場の人手不足改善にも貢献できる」と期待を込めるのは同チーム課長代理の西本尚弘氏だ。「働き方改革が進み、これまでと同様にタイヤ管理に人員を割けないようなケースが出ているが、このシステムならメリットを出せる」と強調する。

 昨年9月に福岡県、宮崎県、鹿児島県でスタートした初の実証実験は今年8月まで行われる。九州地区でサービスステーションを展開する新出光と、同社のグループ会社でレンタカー事業を担うイデックスオート・ジャパンの協力を得て、住友ゴム販売子会社のダンロップタイヤ九州(福岡県)も取り組みをサポートする。レンタカー車両500台、カーリース車両30台の合計530台を用いて、実証実験としては国内最大級の規模で進められている。

 今回は対象の全ての車両にBluetooth(ブルートゥース)を組み込んだTPMSを装着し、得られた情報は住友ゴムが提供するクラウドを通じて運行管理者やサービスステーションのスタッフなどが確認できるようになる。カーリース車両はドライバー自身が新出光が提供するウェブサイトで状況を閲覧することが可能だ。

実証実験を行っている店舗のひとつ「Budgetレンタカー 鹿児島空港店」
実証実験を行っている店舗のひとつ「Budgetレンタカー 鹿児島空港店」

 レンタカー車両は営業所内にアンテナを設置してTPMSから空気圧と温度データを自動で収集する。これによって貸し出し前と返却後に行う必要があった点検の自動化を実現した。一方、カーリース車両には車載器を搭載して走行中の空気圧を5分間に1回測定してクラウドに送信していくシステムとなっている。さらに系列のサービスステーションを使用した際は店舗に設置したアンテナからも空気圧情報を収集する仕組みだ。ともにデータを蓄積して点検の履歴を記録簿として保存ができる。

 これによってメンテナンス作業の負荷を軽減するだけでなく適正な空気圧維持によって走行時の燃費向上につながることも期待できる。実証実験をスタートして数カ月が経過し、店舗スタッフからの評価は高いという。

 西本氏は「タイヤの空気圧管理に関して言えば、作業に要する時間は従来と比べて8~9割削減できるだろう」と予測する。さらに、一定期間を経て燃費改善やライフ向上が期待通りにいけば、コスト削減にも効果を発揮しそうだ。

 早ければ2021年中にも実用する見込みで、寺本氏は「サービスが有効だと認識されれば、十分にビジネスとなる」と期待を込める。システムのコストは必要だが、人件費やタイヤの購入費用の削減に加えて「安全安心な車両を提供できるという価値」を考えれば成り立つという目算だ。

 その上で、将来へのニーズも見据える。車両の自動運転化が進んだ社会では、「誰がタイヤを管理するのか」という問題が出てくるのは間違いない。それに対して、リアルタイムでタイヤを管理できるサービス体制や仕組みが求められる。これらの全てを解決するソリューションとしての期待を担うのが空気圧管理ソリューションだ。

新たなビジネス創出へ期待

寺本雅紀氏(左)と西本尚弘氏(右)

 西本氏は今回のソリューションが新しいビジネスの創出につながる可能性を指摘する。例えば、サービスステーションにとっては空気圧が減っている車両が来店すれば顧客との新たな接点の機会を生み出すことができ、集客増につなげることもできるかもしれない。

 今後はタイヤの残り溝をセンシングできるような機能追加も検討しており、「お客様のタイヤの摩耗が進んでいれば『タイヤを交換しませんか』などとお声掛けができる。総合的なタイヤメンテナンスが提供できれば、新たな価値につながる」

 「人間の目と手による管理は限界があり、その課題への社会的ニーズは高まっていく。当社のソリューションにはそれを解決する使命がある」と話す寺本氏。空気圧管理ソリューションはタクシー会社やカーシェアリングの事業者、官公庁なども含めて提案の幅が広がっていきそうだ。

 さらに、安全やコストへのニーズが見込まれるトラック・バス用タイヤへの拡大や海外展開も視野に入れ、「お客様に価値として認めて頂けるレベルまで高めていきたい」と意気込む。

 導入事例が増えれば、マーケットからタイヤに関する様々なデータが得られるようになり、それを分析してタイヤ開発に活用していくことも可能だ。西本氏は「我々の使命はより良いタイヤ、サービスを提供することにある。データを蓄積して、より品質の高い製品づくり、より良いモノづくりにつなげていきたい」と将来を展望する。

 タイヤメーカーにとって何よりも求められるのは安全だ。寺本氏は「空気圧管理ソリューションは安全安心で経営効率改善にも寄与する夢のあるサービスだと自負している。サービスが浸透していけばタイヤに起因するトラブルは減少できる」と期待を語る。

 西本氏は「ダンロップの創業者であるジョン.ボイド,ダンロップが世界で初めて空気入りタイヤを誕生させて今の当社がある。空気圧はベースであり、その管理ソリューションを広めていくことは今後のビジネスに大きな意味がある」とした上で、「空気圧に対する世の中の関心が下がってきている現状を踏まえ、そこから新しい付加価値を積み上げていきたい」と見通しを示した。

 TPMSとデジタル技術を活用したソリューションビジネスはライバルメーカーもトラック・バス用タイヤや建設・鉱山車両用タイヤなどで既に実用化しており、市場は黎明期から成長期に移りつつある。住友ゴムも乗用車用タイヤ向けの空気圧管理ソリューションとは別に、群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター(CRANTS)との協業によってレベル4(高度自動運転)に対応したタイヤ周辺サービスの共同研究を開始した。

 自動車産業が変革する中でも変わらない安全という価値、さらにユーザーが受け入れるだけのメリットを生み出せれば普及へ向けて大きな弾みがつく。

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