タイヤワールド館ベストが宮城県内で展開する直営店の中で、顧客から特に高い評価を受けているのが本社に隣接する仙台本店(仙台市宮城野区)だ。店舗の責任者は業界ではまだ数が多いとは言えない女性管理職の中條かすみ店長が務める。接客技術の高さで多くのリピーターを獲得し、グループ内で最大規模の店舗運営を任されるようになった中條店長は「今後も様々なことにチャレンジして店長として成長していきたい」と意欲を示す。タイヤワールド館ベストが将来に向けて女性の活用を積極的に進める方針を打ち出す中、その役割はより重要になっていきそうだ。
前向きな姿勢で店長へチャレンジ
中條店長が地元の高校を卒業後にタイヤワールド館ベストへ入社したのは2005年。「学校の先輩や先生からの評判が良かったことから入社を決めた。ただ、最初はタイヤや自動車に関する知識はあまり持っておらず、ゼロから勉強していった」と当時を振り返る。
入社して最初の1年間は本社で経理などを担当。2年目からは西多賀店に配属され、主に店頭での接客販売に携わってきた。
スタッフとして最も印象に残っていることとして「リピーターや新規のお客様を増やしたこと」を挙げる。
タイヤは1度購入すると次に交換するのは3年後、4年後になるのが一般的。自身の場合は、来店客や購入客に対して知人のドライバーを紹介してもらうよう日々努力を重ねた結果、「徐々に大きな輪が広がっていき、顔馴染みのお客様、そして常連様が増えていった」という。
これは一見すると簡単に聞こえるかもしれないが、実際にはユーザーごとに最適な商品を提案するための知識習得、信頼を得るための接客技術、顧客に共感する力など様々な努力の賜物だろう。誰かの真似をしたというよりも「人と接するのが好き」という自身の強みを活かした気負いのない対応が奏功した。
その後、西多賀店で副店長へ昇進。同店の店長に就任したのは入社して10年が経った頃だ。内示を受けた時は「責任の重さを感じたが、挑戦したい」という前向きな気持ちで会社の期待に応えた。さらに、そこでの実績が評価されて4年前に仙台本店の店長に抜擢された。
仙台本店は直営店の中で最大規模であり、スタッフは中條店長を含めて10名。来店客は30~40代のファミリー層を中心に年間約1万人に達する。
店舗の規模が大きいからこそ、スタッフの考え方は様々ある。そのような状況で重視してきたのはチームワークだ。中條店長は「赴任した時にチームワークが良ければ成功すると考えた。まずはそこに注力した結果、確実にまとまっていけた」と話す。
一方で店長になったばかりの頃は落ち込むことも少なくなかったという。ただ、「落ち込んでばかりはいられない」と改めて前を向き、数字への意識や部下への指示、管理者としての立ち位置、部下をいかにして成長させることができるかなどを徹底して考えることで自身の成長につなげていったようだ。
スタッフの意見、アイデアを活かす
店舗で毎日行うミーティングの場ではスタッフから積極的に意見を出してもらうよう心掛ける。また、店舗づくりにもスタッフの声を反映したレイアウトを採用している。例えば、近年のSUV人気を背景にSUV用のタイヤやホイールを集中して置くスペースを設けたり、店内の壁際に新商品を目立つように配置したりすることで、リピート客に対しても新鮮な印象を与えられるよう工夫している。
中條店長はスタッフから出された意見を否定することは皆無だという。それは自身のポリシーでもある。
「モチベーションを高め、維持してもらうためにも『お客様のためにあれをやりたい』『店舗をこう変えたい』といったアイデアは積極的に取り組んでもらう。『もし上手くいかなかったら改善すれば良い』というプラス思考で考えれば、仮に成果が見られなかったとしても、それが各々の経験値になる」と期待を込める。
これは今まで店長として経験を積んできた中で自身がたどり着いた答えであり、管理者としての理想像に近いのかもしれない。
現在、力を入れている活動は仙台本店のブランド力向上だ。顧客から一層の信頼や共感を得られるような試みとして1年ほど前からスタートした。SNSを活用して商品やサービス、キャンペーンといった情報を発信する以外に、タイヤ装着写真や作業風景を紹介することで親しみやすさが生まれ、集客にも成果が表れてきている。
管理職の3分の1を女性に
タイヤワールド館ベストでは女性管理職の育成に注力しており、安井仁志社長は「将来は管理職の3分の1を女性にしたい。役員にも女性を登用するような会社になっていく必要がある」と展望を示す。背景には「店舗でも女性のお客様が増えてきており、もっと幅広くお客様を取り込んでいくためには様々な発想が必要」という近年の環境変化への対応もある。
同社の直営店で唯一の女性店長である中條店長への信頼は厚く、「他の女性社員に対するシンボリックな存在になっている。接客技術の高さなど、他の店長にとっても良い刺激になっているのではないか」(安井社長)と評価する。
中條店長は「まだまだ自信が持てないことが少なくない」と想いを吐露しつつも、「成長し続けてチャレンジしていきたい」と笑顔を見せる。その上で「スタッフには仕事の厳しさの中でも楽しさを見つけてもらって、より活気のある店舗にしていきたい。それが実現できればもっと店長として自信を持てるようになるはず」――これが乗り越えるべき課題であり、これからの目標だ。
さらに、「将来は人材育成に関わる業務を担当したい」と意欲を語る。
仕事に対して主体的に取り組み、業界を生き抜いていけるような人材をこのタイヤワールド館ベストで育成していくことを将来の夢として想いを馳せる。
中條店長は「どう成長していけば良いのか、自分の将来像を見据えにくいこともある」と今の時代を指摘した上で、「当社で経験を培ってもらいながら伸び伸びと成長していける――そういった社員をもっと増やし、成長したベストグループを作っていきたい」と力を込める。
2020年に創業50周年を迎えたタイヤワールド館ベスト。次の60周年、そしてさらに先を見据えれば、業界を取り巻く環境は激変していくだろう。同社が企業目標の中で掲げている「未来に向かって変化し続ける会社」として、次世代の活躍がより重要な柱となってくる。