国分商会(埼玉県熊谷市)が埼玉県内で展開するタイヤショップ「マーク熊谷店」ではローテーションの提案を積極的に実施しており、ユーザーにもその重要性が浸透しつつある。鹿山拓耶店長に取り組みの意義や今後の展望を聞いた。
マークでは、3年ほど前からタイヤのローテーションの提案に注力してきた。タイヤは装着位置により摩耗しがちな個所や程度が異なる。同じ位置に装着したまま長い距離を走行すると摩耗状態に差異が生じるため、結果としてライフが縮まり、騒音や振動の増加にもつながる。定期的な位置交換により、摩耗の進行具合を均一化し、タイヤを長く快適に保つために必要な作業がローテーションだ。
鹿山店長は「取り組みの開始から3年が経過し、ローテーション自体の認知は業界の中でも全体的に進んできた。定期的に来店して頂けるユーザーが徐々に増えてきている」と話す。以前はローテーションを希望する顧客はほぼ皆無だったが、最近では履き替えシーズンに来た顧客が作業を希望するケースが多くなってきたという。
同店ではタイヤ購入時や交換時の作業の前後にローテーションの案内をしており、目安となる走行距離や重要性を伝えている。また、作業を行っている間も顧客と積極的にコミュニケーションを図ることで“待ち時間”として感じる時間を減らし、必要な情報を伝えるようにしている。
交換を終えた使用済みタイヤに対しても、もしローテーションを取り入れていればより長く使用できた可能性があると伝えており、「次回は利用したい」という反応もあるという。
また、新品タイヤの購入時にはタイヤの性能や使用した距離数、タイヤの位置の入れ替えを行った日付などを記載した同社独自の「タイヤ手帳」を手渡している。タイヤのメンテナンスに関連した記録をまとめて管理できるほか、タイヤやローテーションの役割を分かりやすく説明している。
店舗では「危ないと言われたそのタイヤ、見させてください」というPOPも張り出しており、サービススタンドなどでタイヤの状態に関して指摘を受けたユーザーにアピールする施策を実施してきた。タイヤのローテーションはドライバーにとっても効果がはっきりと実感できる作業で、リピーターの獲得にも寄与している。
このPOPに採用したメッセージは、環境やサステナビリティへの意識から、タイヤを長く使ってもらうためのアイデアを探していた際に、スタッフが提案したものが発端となった。ユーザーの環境志向は現在それほど高くないというが、メンテナンスを提案することで「長く大事に使う」という選択肢を提示できることは意識の醸成につながるかもしれない。
こういった取り組みは、確実にユーザーの行動に波及しており、同店でのローテーション作業の実施数は徐々に増加している。案内を積極化する以前は依頼するユーザーはほぼゼロに近い状態だったのが、現在は1カ月当たり平均で30台近くの作業依頼がある。
鹿山店長は「ここ3年間はコロナの影響もあり、車をさほど使用しなかった人も多い。ただ、最近は動きが戻りつつあることから、最低でも1日3台程度の作業頻度に持っていきたい」と意欲を示す。
ただ、ローテーションの依頼自体は増えているものの、来店するタイミングが遅くなってしまうユーザーも多いという。今後は、来店者から見える場所にPOPなどを掲示し、早めのローテーションを促すことを検討している。
さらに、ユーザーだけではなく、ほかのチャネルにもマークの取り組みが広く知られるようになってきた。同店のアプローチの背景には“業界全体でもローテーションを一般的にしたい”という狙いもあり、マークの活動が実を結びつつあるようだ。
ローテーションの必要性は浸透してきたものの、「一般ユーザーのタイヤに対する関心はまだ薄い部分もある」と鹿山店長は指摘する。運転免許取得のための教習所などで多少の学習はされているが、消耗品であることから関心を持ちにくいという側面も事実だ。
「タイヤは地面に接する部分。当店でローテーションや空気圧の点検などを広めていければと考えている。タイヤの重要性を知ってもらい、オイル交換と同じくらいの認知度に高めるためのアナウンスを積極的にしていきたい」と展望を語った。
一人ひとりのユーザーに対し、タイヤを長く快適に使うための知識を伝えていく――マークの地道な活動が、着実に広がってきている。