住友ゴム、欧州事業の鍵握るトルコ工場 増強後の“次”も視野に

シェア:
カテゴリー: レポート, 現地

 住友ゴム工業は10月5日、2015年に稼働したトルコ工場を報道陣に公開した。主に欧州市場への供給拠点として活用していく方針で、工場の1日あたりの生産能力は当初の4000本から現在は1万6000本に拡大した。さらに2020年には約9割増の日産3万本へ引き上げる計画で、現在も増強が進められている。その一方で、黒田豊取締役常務(欧州・アフリカ本部長)は、「工場の使命は単にタイヤを供給するだけではない」と話す。自動車関連技術で世界に影響を与えるようなトレンドが生み出される欧州で高いレベルのニーズに応えながら、将来的には生産技術面でグループの中枢となることも求められていく。

欧州攻略の要となるトルコ工場

トルコ工場
トルコ工場

 住友ゴムは今年策定した2018年から2022年までの5カ年の中期経営計画で、2022年に売上高、利益ともに7割以上を海外市場で稼ぎ出す方針を打ち出した。これまではアジアや新興国で収益向上を図ってきた同社だが、今後の柱は欧米。その中でもトルコ工場は欧州地域への供給基地として重要な鍵を握っている。

 トルコの首都アンカラから隣接するチャンクル県に入り、車で90分ほど走ると見えてくる広大な工業団地。その中でひと際目立つ、まだ新しさの残る建物がトルコ工場だ。同工場は2013年2月に、住友ゴムとトルコ国内で最大規模のタイヤ販売会社であるAKO社とが合弁で設立した。欧州はもちろんのこと、ロシアや中東、北アフリカへの輸出にも適した立地で、トルコ中部アナトリア地方に大規模工場を建設したのは日系企業としては初めてだという。

トルコ工場の建屋
トルコ工場の建屋

 生産開始は2015年6月。現地でニーズが高いウィンタータイヤやオールシーズンタイヤをはじめ、欧州にはファルケン、ロシアにはダンロップ、トルコ国内には両ブランドの乗用車用タイヤを供給している。出荷構成は海外の市販・新車用が85%、トルコ国内の市販用が10%、新車用が5%となっている。

 現地法人、スミトモラバーAKOの西野正貢社長(住友ゴム工業執行役員)は、「欧州向けは日本やタイからの供給に比べて輸送期間が大幅に短縮できる。輸出販売は2020年に900万本に高め、その先も増やしたい」と展望を話す。来年にはロシア市場向けにダンロップブランドの本格的な供給開始を予定している。

新工法を全面的に採用、グループ内の最新設備も

太陽システムのユニット内部
太陽システムの生産設備

 欧州はウェット性能と低燃費性能に対するニーズが高いことから、生産品目はシリカの配合比率が高い製品が主流。高度な生産技術が必要となるため、微粒子シリカを効率良く混合できる最新のミキサーを住友ゴムグループとして初めて導入した。

 また材料工程と成形工程を一体化させ、自動化・小型化した独自の生産システム「太陽」を全面的に導入したこともポイントとなる。全ラインに「太陽」を導入したのはブラジル工場(2013年稼働)に続き2カ所目。同社では「高精度と高性能の追求とともに、多品種少量生産に対応できる」とそのメリットを話す。

黒田豊取締役常務(欧州・アフリカ本部長)
黒田豊取締役常務

 「太陽」は、材料の準備から成形工程、加硫工程、倉庫までを1つのユニットとして構成する。成形機は1ユニットに4台あり、1台あたりのオペレーターは3名と最小限で済む。また自動化できる部分が多く、タイヤのユニフォミティーとバランスが向上するほか、最適なゴムの厚みを高い精度で制御でき、タイヤの軽量化にもつながる。

 工場の総投資額は約5億ドル(約561億円)。現在は5つのユニットが稼働しており、2020年に8ユニットまで拡張する計画だ。この時点で生産能力は現状より9割増えて日産3万本レベルに達する見込みだが、工場の敷地はまだ半数ほどが未使用のため、需要に応じて更なる増強の余地もある。

 また、現時点では汎用タイヤと高性能タイヤの生産比率が半々になっているが、今後は設備をより活かすためにも高付加価値商品や大口径タイヤへのシフトを進めていく考えだ。さらに、オペレーターが肉眼で外観をチェックする検査工程では、集積したデータの中から特徴を見つけ出すAI(人工知能)の活用や自動化などを検討していく。

増強後の“次”も視野に

 「タイヤを供給するのではなく、最先端の製造技術開発を行う拠点にしたい」――黒田常務はトルコ工場の将来像について、こう力を込める。一層の低燃費技術や低騒音、軽量化が求められる電動車の普及や環境規制の強化なども視野に入れつつ、「新技術に対応する最新鋭の設備が必要になれば、トルコ工場に最初に入れることになるだろう」と話す。

 最終的には生産技術でフラッグシップとしての役割を担う可能性があるトルコ工場。欧州での事業拡大、そして住友ゴムの次の飛躍に向けてその重要性と期待は一層高まっていく。

関連:住友ゴム、欧州で攻勢 ミッドセグメントでトップへ  住友ゴム、トルコ工場で安全研修を推進、労働災害の撲滅へ


[PR]

[PR]

【関連記事】