消費者起点のビジネスに取り組む
ブランド力訴求し収益性の向上を
利益体質への構造改革図る
――23年上期の事業を振り返って。
米国・アクロンのグッドイヤー本社は、アジア・パシフィックリージョン(地域)のビジネスを重視しており、自動車関連産業が成熟した日本を最も重要な市場の一つと位置付けています。このことは1952年に日本グッドイヤーが日本法人として設立されて以来71年、変わりありません。日本の需要に対応し、グッドイヤーの高性能のタイヤを取り揃え販売してきています。
上期の業績は業界需要を反映し内容としては厳しいものでした。上期の国内市販用市場は需要が低迷し全体的に販売数量が前年実績を割り込む状況で推移するなかで、当社は市場シェアをほぼ維持することができました。販売活動に携わる販売代理店の皆様、社員全員がよく頑張った結果だと思います。
ただ日本市場、とくに市販用市場が厳しい局面で推移が続いていることが背景にありますので、当社には一層の利益体質へと変革することが求められます。
グッドイヤーは現在、グローバルで構造改革に取り組んでいます。また、日本グッドイヤーもグループの一員として、利益構造の改善にむけ取り組んでいます。
市場セグメントごとの分析では、アジア・パシフィックリージョンでオーストラリアとニュージーランドを除いたアジア地域だけをみると、タイヤ販売のボリュームは伸長し利益も上がっています。タイヤ市場として成長の過程にあり、これからも成長する市場だと、グッドイヤーは期待を寄せています。
日本はこのアジア・パシフィックリージョンの一画を占めますから、この地域全体で取り組むべきテーマや事業計画に沿って日本グッドイヤーも事業活動を行っています。それによりリージョン全体で利益を上げていこうということです。
目指す方向を明確にし、アクションプランを決め、それに沿ってビジネスを行う――日本グッドイヤーはここ数年、時間をかけて取り組んできました。
ただ一方で、これまでのやり方、その延長線で続けていてよいのかというと、成長を見据えるとジャンプボードが必要です。言い換えればそれはビジネスにかけるマインドであり、仕事の仕方です。グローバルで求められるものに応えるためには、それらを変えていかなくてはなりません。
日本は成熟し、一方でアジア地域は成長するという、それぞれの市場環境が大きく異なるなかでリージョン全体で構造改革を行い利益体質へと改善する。ハードルはかなり高いのですが、わたくしは前向きに捉えています。
ブランドの〝価値〟は品質に
販売店の皆様を通じて、グッドイヤーの価値をいかに消費者にお伝えするか。これが大変重要なテーマとなります。たとえば当社が欧州から輸入する、「イーグルF1スーパースポーツ」に代表される超ウルトラハイパフォーマンス(ウルトラUHP)タイヤは販売規模はまだ小さいのですが、確実に販売量が増加しています。その要因の一つは欧州の高性能ハイエンドモデル車へのOE装着が増えていること。欧州系カーディーラーでの販売量が増え市場での成長につながっています。
新商品の「E—グリップ2 SUV」や「ベクター4シーズンズ GEN−3 SUV」など、SUV/4×4のセグメントに対応する大口径・ハイインチのタイヤの販売も堅調に推移しています。
国内経済がインフレ基調にあり諸物価が高騰したことを背景に、消費者の価格志向が強まっています。ですが、ただ単に価格だけでなく性能・品質でタイヤを選ぶ消費者も少なくない。グッドイヤーの価値、長年の間培われてきたブランド力を訴求することで品種ミックスの改善に貢献しますし、販売店の皆様には収益力の向上につながります。
タイヤ価格が改定され、それが市販用市場の需要曲線にインパクトを与えました。冬用タイヤも7月までに仮需要が起き、8月はその反動とメーカー出荷の在庫調整の影響もあり前年に比べ大きく減少しました。ただ当社の場合、想定の範囲内でほぼ推移するとみており、通年でみると当初の計画で進むと見込んでいます。
本社を移転。働きやすい環境で
――23年のトピックとは。
本社を移転したことが上期の大きなトピックとしてあげられます。プロジェクトを組み1年ほどかけて検討し、その準備を進めてきました。働きやすい事務所づくりを目標とし、考え方の根本を「フリーアドレス」としました。決まった場所で仕事をするのではなく、そのときその内容に応じて仕事の環境を自由に選べるようにしています。部門間の垣根が取り払われ、社内のコミュニケーションが非常に良くなったと思います。
新型コロナ感染症の分類が5類となったことで、当社の営業活動はコロナ以前のスタイルに戻りつつあります。お客様と対面で仕事をする機会が増えています。ただ、コロナ禍で始めたリモートワークも定着しましたので、そこはニーズにより使い分けをしてもらっています。ウェビナーを使った会議スタイルも定着し、時間とコストの削減にもつながっています。
また今年、グッドイヤーが創立125周年を迎えました。大きな節目であり、その記念イベントを2日間にわたりマレーシアで行いました。今後アジア・パシフィックリージョンで発売する新商品4種を発表し、会場は大変な盛り上がりを見せました。新商品の一部は日本市場でも販売展開を予定していますので、非常に楽しみにしています。
成長分野のオールシーズンタイヤ
――23年下期以降のタイヤ販売の展望を。
23年第3四半期以降の市販用市場ですが、消費者の動向が大きく変わるとは思っていません。また当社の場合、夏用タイヤは値上げによる仮需要とその反動の振れ幅がそう大きくなく、これからの冬用タイヤについても同様だろうとみています。マクロ的にみても、冬用タイヤは夏用タイヤほど需要が減少しないと考えます。
ただ、カーディーラーなどのチャネルで販売競争が激化しています。クルマ市場で新車販売が回復していますので、冬用タイヤでは添付タイヤの販売に力を入れ需要を確実に取り込んでいきたい。
冬用タイヤについては2ラインでの販売活動を行いますが、プレミアムスタッドレスタイヤの「アイスナビ8」を主軸としてしっかりと販売活動に取り組む考えです。スタッドレスタイヤは性能が非常に重視されます。「アイスナビ8」はシリーズ初の左右非対称パターンを採用し、氷上性能を大きく向上させています。前モデルに対するプラス・アルファの性能を訴求し、一層の拡大販売を目指します。
グッドイヤーと言えばオールシーズンタイヤセグメントです。この分野のパイオニアとして、積極的に販売活動に取り組み続けています。
直近、1月〜8月の販売状況をまとめましたが、前年実績を上回っています。オールシーズンタイヤの市場規模が着実に成長するなか、「ベクター4シーズンズ GEN−3」「ベクター4シーズンズ GEN−3 SUV」をはじめとする「ベクター」というグッドイヤーのプロダクトブランドは確実に浸透しているとみています。
オールシーズンタイヤと言えば「ベクター」ということで、タイヤ販売店の皆様からも「売りやすい」という声をいただいています。多くの競合他社からもオールシーズンタイヤが発売されていますので、日本市場でもこのセグメントは定着したと言ってよいのではないでしょうか。
夏用タイヤ、冬用タイヤそれぞれにシーズン性があるのに対し、オールシーズンタイヤは1年を通じて販売することができます。タイヤのビジネスでこれは大きなメリットだと考えます。
また、最近はシーズン性の部分だけでなく、いわゆるオールテレーン、全地形に対応できるということで、アウトドアレジャーでお使いになるクルマに装着するという観点からもオールシーズンタイヤが注目されるようになってきました。キャンプ場に向かう途中でぬかるみなどに遭遇しても、オールシーズンタイヤは優れた走破性を持っていますので。このようなアウトドアレジャーに関係の深いイベントで商品を展示し、消費者へのアプローチを強めています。
「ベクター4シーズンズ GEN−3 SUV」を筆頭に、シリーズの商品ラインアップを取り揃え、発売サイズも豊富にご用意しています。
環境保全活動を継続支援
――サステナビリティを意識した経営が求められるが、その取り組みの現状と今後のビジネスの考え方を。
気候変動への対策は企業にとって非常に重要なテーマです。カーボンニュートラルの実現など、取り組むべき課題は非常に多い。社会のため、多くの人々のため、幸せのために、グッドイヤーができることを常に意識して、活動に取り組んできています。そのなかで日本グッドイヤーは環境保全活動を行うNPOや団体を支援する取り組みを行っています。
日本では現在5カ所、世界自然遺産に登録されていますが、当社はそのうちの4カ所で環境保全活動を行う団体に協賛しています。北海道・知床、青森県・白神山地に続き、今年は鹿児島県・屋久島の環境文化財団にタイヤを寄贈したほか、賛助企業として支援活動を行っています。一昨年に奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島一帯が世界自然遺産に登録されました。ここで貴重な自然を守るために活動する団体をはじめ環境保全を行う団体を支援し、これからも継続して社会活動に取り組む方針です。
ビジネス面では、日本グッドイヤーは消費者起点で販売活動に取り組んできています。タイヤ販売店の皆様はその接点にあります。現場ファーストということで、皆様の現場でお役に立てることや、皆様からいただいたリクエストにきちんとお応えして参りたい。そうすることで消費者起点のビジネスをさらに強めていきたいと考えます。