安全なクルマ社会の実現へ ブリヂストンの「イノベーション」

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カテゴリー: レポート, 現地

 ブリヂストンは4月9日、栃木県のプルービンググラウンド(テストコース)で安全をテーマとした技術説明会を開催し、路面判定技術「CAIS」(カイズ)や次世代低燃費タイヤ「ologic」(オロジック)の実車デモ、さらに乗用車用タイヤ「Playz」(プレイズ)の開発で活用した脳波測定装置の実験を公開した。同社ではこれらの先端技術を広く普及させることで、安全なモビリティ社会へ貢献していく。

路面状態を解析する「CAIS」

CAISモニター
乾燥路面では「DRY」と表示

 「CAIS」は、Contact Area Information Sensingの頭文字。タイヤのトレッド内面に取り付けたセンサーから接地面の歪みや加速度、圧力、温度などを感知し、その情報を解析して路面状況をドライバーへ伝える技術。

 同社は2011年11月から株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道と共同試験を進め、昨年から冬季の路面管理業務として実際の運用を開始した。こうしたシステムは複数のタイヤメーカーが研究を行っているが、路面状況のセンシング技術を実用化したのは世界初となる。

 今回は株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道が使用しているシステムと同等の車両でテストコースを走行。運転席側に取り付けたモニターで乾燥路では「DRY」、ウェット路面に入った瞬間に「WET」と正確に表示することを実証した。テストでは時速約50kmで走行したが、路面状況がモニター上で切り替わるまでの時間は1秒未満だった。

トランクルームに設置した解析装置
トランクルームに設置した解析装置

 同社では今後、システムの高度化を進め、コスト面や解析装置の小型化といった課題をクリアした上で一般車両への適用を目指す。ネクスコ・エンジニアリングなど業務用で使用する場合は作業の効率化がとくに求められていたが、一般車両向けでは安全性の向上に主眼を置いたものとなる。

 夜間など目視では路面状況が分かりにくいケースも少なくないが、タイヤが路面の変化を把握してリアルタイムでドライバーに伝えることで、安全運行が可能となる。

 さらに将来的には、「CAIS」を装備したクルマ同士で情報を共有することも視野に入れる。これが実現すれば、例えば数km先を走る車両が後続車に危険を知らせるなど活用の幅が広がり、事故の減少に繋がることが期待される。

「感性アナライザ」」でストレスを定量化

感性アナライザ
感性アナライザを装着して脳波を測定(右)。結果はタブレット端末で数値で確認できる(左)

 「疲れにくいという安全性能」――ブリヂストンが今年2月に発売した「Playz PXシリーズ」の商品コンセプトだ。一般的にドライバーは運転中、無意識に細かいハンドル操作を繰り返しており、これがストレスとなり疲労が蓄積されていくという。言い換えればハンドル修正やストレスを減らせば、より安全なドライブが可能になる。「Playz」ではパターンや形状に新技術を採用し直進安定性を向上したことで、“疲れにくいタイヤ”を実現した。

 ただ“疲れにくさ”は、満足度や達成感などと同様に主観的な感性であり、数値としてどう客観的に表すのか――こうした定性的な情報を定量化するため、開発に協力したのが慶応大学理工学部の満倉靖恵准教授の研究チームだ。

 満倉准教授が開発した「感性アナライザ」では、脳波センシングを用いて“疲れ”といった感情を数式化することに成功した。「仰々しい装置は付けたくない」との考えから、簡易型の装置ながら精度の高い実験が可能となった。

 なお「Playz」の開発過程でブラインドテストを行った際、全ての被験者において新商品のほうが ストレス値が明らかに低いという結果が示された。

超低燃費タイヤ「ologic」の実力

 「ologic」はタイヤの幅を狭くした上で大径化させ、さらに高内圧にすることで、転がり抵抗や空気抵抗を低減するコンセプト。

 今回は「ologic」と「エコピアEX20」を装着した日産「リーフ」で比較走行を行った。「ologic」のタイヤサイズは165/60R19で空気圧は320kPa。

 走り出してすぐに感じるのが軽快感だ。リーフとの相性が想像以上に良い印象で、スラロームでもキレの良いハンドリングを楽しめる。当日はドライ路面のみを走行したが、ウェット性能も従来タイヤ以上のレベルを確保しているという。

 「ologic」標準装着されているのは現時点ではBMW「i3」のみ。ただ、「欧州では複数のメーカーが関心を示している」(同社)としており、これから徐々に適用車種が進んでいくものとみられる。同社ではそれに合わせて「ologic」のラインアップを拡充させていく方針だ。

ランフラットとCAISの組み合わせも

原秀男フェロー
ブリヂストンの原秀男フェロー

 多くのイノベーションを生み出してきたブリヂストン。説明会に出席した原秀男フェロー(技術スポークスパーソン)に今後の展望を聞いた。

 ――近年、タイヤ事業と化工品事業を組み合わせたビジネスを進めているが。

 「今のビジネスモデルのままだと将来は駄目になる。乗用車でもトラックでもモノを売る時代からサービスの時代になってくる。それが最も早く進むのは鉱山用の分野だ。当社は鉱山用タイヤと同時にベルトコンベアや油圧ホースも生産している。ソリューションとして提案ができ、これがビジネスモデルになってくる。

 乗用車でいえば、NVH(Noise、Vibration、Harshness)ソリューションと呼んでいるが、当社はタイヤだけではなくエンジンマウントやシートパッドなども生産している。OEメーカーへソリューションとして組み合わせて提案している。これまで開発は別々に行っていたが、今後は各部門が一緒になって進めていく」

 ――自動運転が普及した時、タイヤの役割は。

 「パンクしても走れるランフラットタイヤの装着が増えていくかもしれない。万が一、パンクしても目的の場所までは必ずたどり着き、その後はメンテナンスに回るようにならないと、自動運転の意義がない。

 それからCAISのようなセンシング技術も重要になってくる。自動ブレーキなどは精度が上がってきたが、路面の判定は難しい。カメラで撮影する方法でも夜間は分かりにくいなどの課題があり、触ってセンシングするという技術は必要になる。将来はランフラットタイヤとCAISの組み合わせなども十分に考えられる」


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