Talk about driving(トーク・アバウト・ドライビング)

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カテゴリー: レポート, 試乗

 モータージャーナリスト瀬在さんと、前後異サイズのタイヤ装着車に乗りながら

 スカイラインGT NISMO/レクサスRC350

 (3)レクサスRC350

 高級車の重厚感ある走りに応える

レクサスRC350 F SPORT
レクサスRC350 F SPORT

 1月、ニッサンGT−R NISMO(ニスモ)のタイムアタックイベントが行われ、取材現場である茨城県の筑波サーキットへと赴いた。そのときにレクサスRC350 F SPORT(エフ・スポーツ)に同乗したのだが、このクルマにも前後異径サイズのタイヤが新車装着されていたのだ。前回レポートしたニッサンスカイラインGT(2019モデル)NISMOからさして間を置かず、その走りを体感する機会を得られたのは僥倖と言えるだろう。モータージャーナリストの瀬在仁志さんに解説してもらった。(3回連載の3回目。レクサスRC350編)

 レクサスRCシリーズについて、瀬在さんは次のように解説する。

レクサスRC350 F SPORT装着タイヤのサイド部アップ
レクサスRC350 F SPORT装着タイヤのサイド部アップ

 「トヨタの世界戦略としてブランディングされたのがレクサス。米国市場を主要ターゲットとして、高級車志向の強いユーザー層に向けて立ち上げられました。ライバルは欧州メーカー。なかでもメルセデスベンツやBMW、アウディといったドイツ車です。それらに対抗するために、レクサスには高い品質基準を設け、それに則ったクルマづくりを行っています。

 レクサスRCシリーズはスポーツクーペ。前回試乗したスカイラインGT NISMOと同様にFR(後輪駆動)車です。スポーツクーペはトヨタが現在、日本国内で展開しているクルマにはないカテゴリーですが、源流をさかのぼっていくと、ソアラへとたどり着きます。このように表現すると、レクサスにおけるRCシリーズのポジションというものをイメージしやすいかもしれません。

 シリーズにはV型6気筒3.5リットルエンジン搭載のRC350、直列4気筒2.5リットルエンジンを搭載したハイブリッド車のRC350h、直列4気筒インタークーラー付きターボ2リットルエンジン搭載のRC300。いずれにもスタンダードグレード、バージョンL、スポーツ性能を高めたF SPORTと、それぞれのエンジン搭載車に三つのグレードが用意されています」

 

F SPORTエンブレム
F SPORTエンブレム

 今回試乗したのはRC350 F SPORT。内燃機関によって卓越したスポーツドライビングをより楽しもうというのが設計コンセプトだ。フロントのフェンダー下部にF SPORTを示す専用のエンブレムが貼られていた。「サスペンションをF SPORT専用にチューニングし、切れの良いハンドリングレスポンスを実現しています」と、ハンドルを握る瀬在さんが印象を語る。

 

 

レクサスRC350 F SPORT装着のフロントタイヤ
レクサスRC350 F SPORT装着のフロントタイヤ

 このクルマに新車装着されたタイヤはブリヂストンのPOTENZA(ポテンザ) S001L。フロントサイズ235/40R19 92Y、リアサイズ265/35R19 94Y。専用のホイールはフロント19×8.5J、リア19×9.5J。前回レポートのスカイラインGT NISMOと同じく、リアタイヤの偏平率を低くし、トレッド幅を30ミリ、フロントタイヤよりもワイド化した。

 なおホイールの締結にはハブボルトによる締結構造を採用した。従来のスタッドボルト&ハブナット締結構造と比べ高剛性化と軽量化を実現し、手応えの良い操舵感と乗り心地の向上に貢献する。

 

 操舵と駆動が異なる

 前後輪の特性に対応

 

リアタイヤのパターン
リアタイヤのパターン

 タイヤの太さ、つまりタイヤのトレッド幅が異なる前後異幅タイヤ。タイヤのリム径が異なる前後異径タイヤ。通常、クルマは前後・左右4本いずれも同じサイズのタイヤを装着するのが基本だ。だが、このレクサスRC350 F SPORTもスカイラインGT NISMOと同様に、フロントとリアとではタイヤのトレッド幅の異なる前後異幅タイヤが装着されていた。

 前後でタイヤのローテーションができないというデメリットがあるにも関わらず、フロントとリアで異なるサイズのタイヤを装着するのはどのような理由からなのだろうか。瀬在さんは「クルマのハイパワーを受けとめて、タイヤのグリップ力を向上させるため」と指摘する。それならば4本のタイヤすべてを幅広化する、大径化するという考えかたになりそうなものだが、ことはそう単純ではないようだ。

 タイヤを太く、大きくすると、タイヤ単体の重量は必然的に重くなる。タイヤの接地面が広がれば転がり抵抗が増え、受ける空気抵抗も増える。クルマの燃費性能や空力性能に大きく関与する要因だ。また、前輪には左右に曲がる、車両の位置をコントロールするという操舵の役割がある。

 クルマには4本のタイヤがすべて駆動する4輪駆動車に対し、2輪駆動車がある。重いエンジンを車両の前方に積み前輪で駆動する方式がフロントエンジン・フロントドライブ(FF)、後輪で駆動する方式がフロントエンジン・リアドライブ(FR)。ほかにもエンジンを車両中央に置くミッドシップエンジン・リアドライブ(MR)、エンジンを車両後方に置き後輪で駆動するリアエンジン・リアドライブ(RR)もあるが、クルマ市場では前2者が圧倒的に多い。

 FFの場合、コーナリングで速度をあげると、ハンドルを切ってもクルマが曲がらず外側へと膨らんでいくアンダーステアという現象が出る。一方、FRの場合はその逆に、ハンドルの切り角を保ったままの状態でも内側へとより切れ込んでいくオーバーステア現象が出やすい。リアタイヤが遠心力に負けてグリップ限界を超えて、横滑りを起こしてしまう。

 4本のタイヤをすべて太く、大きくすると前記の抵抗が増え、ドライブフィーリングの軽快感にダイレクトな影響が及ぶ。また、FF車で操舵と駆動の両方の役割を担う前輪を後輪よりも太く、あるいは大きくしないのは、後輪が前輪のグリップに負けてオーバーステアが出ることを抑制するためという考え方による。

 スカイラインGT NISMO、レクサスRC350 F SPORTともにFR車。ロングツーリングが楽しく、重厚感のある走りを演出するハイパワー高級スポーツカーだ。

 「FRでは操舵するフロントのタイヤに対して、駆動するリアのタイヤに前進するときのトラクションや横からの入力に対する踏ん張りがより強く求められます。このようなグリップ力の向上のために、前輪よりも太い、あるいは前輪よりも径の大きいタイヤをリアに装着するという選択肢が出てくるのです」、瀬在さんはこのように語った。

 (3回連載おわり)

 

 =瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

瀬在仁志氏
瀬在仁志氏

 モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。


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