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カテゴリー: レポート, 試乗

 モータージャーナリスト瀬在さんと、前後異サイズのタイヤ装着車に乗りながら

 スカイラインGT NISMO/レクサスRC350

 (2)スカイラインGT NISMO(後編)

 GTカーの走りを支えるタイヤ

スカイラインGT NISMO
スカイラインGT NISMO

 

 輸入車やFR(後輪駆動)のスポーツカーに多くみられる前後異サイズタイヤの装着。その意図はどこにあり、走りにどのように影響するのか。モータージャーナリストの瀬在仁志さんが運転するスカイラインGT NISMO、レクサスRC350に同乗し、純正で装着された前後異サイズタイヤの性能を体感した。(3回連載の2回目。スカイラインGT NISMO編の後半)

 

 GTカーとして〈速く〉〈楽しく〉〈快適に〉走る——スカイラインGT NISMOはそれを目標に開発された。めざす走りの性能をフルに発揮するために採用されたのが、前後輪でトレッド幅の異なるサイズのタイヤを装着するというベース車にはない、NISMO独自の設計だった。

 ベースとなるスカイライン 400Rの装着タイヤはフロント・リアともに245/40RF19。サイズ表記にあるとおり、ランフラットタイヤである。対してスカイラインGT NISMOのそれはフロント245/40R19 98W、リア265/35R19 98W。ランフラットタイヤ構造ではない。

 

「SP SPORT MAXX GT600」のタイヤサイド部
「SP SPORT MAXX GT600」のタイヤサイド部

 スカイラインGT NISMOに純正装着されたタイヤは、住友ゴム工業の専用開発によるDUNLOP「SP SPORT MAXX(エスピー・スポーツ・マックス) GT600」。ベース車よりもさらにエンジン出力とトルクを高めたことに対応するため、リアタイヤのトレッドをフロントタイヤよりも20ミリ幅広化した。

 瀬在さんは「NISMOの資料データによると、『リアタイヤが発生する横力』が400Rと比べてスカイラインGT NISMOは約25%向上。その一方で車両のリフト量は60%も低減しました」と紹介する。この車両リフト量の向上によって接地性があがり、タイヤが路面をしっかりと捉え続けることを可能にしたのだ。試乗インプレッションの冒頭(この連載の1回目)で、瀬在さんが指摘した「粘り感のある走り」とはまさにこれを指す。

フロントタイヤのパターン
フロントタイヤのパターン

 NISMOは「開発ドライバーが限界域と通常域の評価を繰り返し行った」とし、装着タイヤには「コンパウンドや内部構造に最適チューニングを施した」と説明している。また、「ウェット性能を含め、常に最適な前後バランスとするため、トレッドパターンもフロント・リアそれぞれで専用化した」という。

 タイヤと同様、ホイールも専用設計を採用した。ENKEIと共同で開発。ベース車両の400Rはフロント・リアともに19×8.5Jだが、スカイラインGT NISMOはフロントが19×9J、リアが19×9.5J。ホイールのリム幅をフロントで0.5インチ、リアで1インチ、それぞれワイド化した。コーナーで横方向に入力がかかったときにタイヤの踏ん張りが一層効くという。操舵の初期段階からフロントのレスポンスが向上し、快適なハンドリング性能を実現した。

 リアの幅広化をはじめタイヤ・ホイールの性能向上に合わせて、フロントとリア、それぞれのサスペンションについて最適化を図った。リアのスタビライザーのばね定数をアップし、一方でフロントの旋回速度が上がることで荷重がかかってくるためフロントサスのスプリングレートを変えたことで前後のバランスをとり、安定感が向上したという。

 

 前後それぞれ専用設計

 性能をフルに発揮

 

 前記のとおり、ベース車両は前後輪とも同じサイズでランフラットタイヤを採用したが、NISMOの設計は違った。「ひとつはスタビリティを向上しハンドリングレスポンスを高めるため。もうひとつはばね下重量をできるだけ軽くしたいという考えがあります」と、瀬在さんは指摘する。

 この連載でのちに詳しく触れるが、ランフラットタイヤはその機能を十全に発揮させるために、タイヤサイド部の内部構造を肉厚にする必要がある。それにより乗り心地やハンドリングレスポンスに影響が及ぶ。また、タイヤ単体の重量も重くなってしまう。

 スカイラインGT NISMOに純正装着された「SP SPORT MAXX GT600」は、ランフラットタイヤではなくノーマル構造を採用した。ベース車の400R装着タイヤに比べ11%もの軽量化を実現。さらにホイールもENKEI独自のMAT工法により、ワイドリム化したにも関わらず7%の軽量化を果たした(ともに1台あたり)。

 タイヤをノーマル構造に変更したことで、外乱に対する性能を高めた。過敏な挙動やふらつきを抑え、しなやかな走りを実現したとする。「新車装着されたタイヤはパターンのブロックが比較的大きいため、荒れた路面の場合、ザラザラとした感触を拾いやすいかもしれません。ただ、ランフラットタイヤではないためタイヤサイド部がかたくないので、ゴツゴツとした入力を吸収してくれます。乗り心地が格段に良くなりました」と、瀬在さんは解説する。

リアタイヤのパターン
リアタイヤのパターン

 その点を含めたうえで、「420PSものパワーをリアの2輪で受けとめるのは大変なことです。付け加えるなら、405PSの400Rですらかなりのジャジャ馬でしたから、それよりもパワーアップした420PSのGT NISMO専用タイヤを開発するにあたって、その努力は並々ならないものだったのでしょう」と思いをめぐらせる。

 操舵するフロントタイヤ、駆動するリアタイヤ。前後輪のトレッドパターンもフロントは旋回性能、リアはトラクション性能の向上を図る専用デザインを採用した。それぞれのタイヤがきっちりと役割を果たすことで、GTカーの走りの性能をフルに発揮することが可能となった。『新車装着タイヤは究極の専用タイヤ』と形容されるが、その〈ゆえん〉を垣間見た。

 (つづく)

 

 =瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

瀬在仁志氏
瀬在仁志氏

 モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。


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