脱炭素の切り札に――生産現場で“蒸気管理”の課題を解決する「STEAM‐Z」

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カテゴリー: レポート, 現地

 地球温暖化につながる温室効果ガスの排出をゼロにする脱炭素社会の実現に向けた機運がグローバルで高まっている。企業は様々な活動を通じてCO2削減に乗り出しているが、タイヤ業界も例外ではない。特に重要な柱の一つとなるのが生産拠点での対応だ。こうした中で、今後の普及が期待されている製品がある。ゼットエンジニアリング(東京都江戸川区)は3年ほど前からタイヤ加硫機向け超多段型オリフィス式トラップ「STEAM‐Z」(スチーム・Z)を現場の課題を解決する切り札として展開している。

「STEAM‐Z」
「STEAM‐Z」(クリックで拡大)

 ゼットエンジニアリングは1984年に設立したオリフィス型スチームトラップの製造販売会社。国内500以上の工場への納入実績を持ち、欧州やアジアなど海外でも蒸気管理による省エネルギー事業を展開している。

 スチームトラップは蒸気を熱源として利用している熱交換器や配管に設置し、蒸気が熱を放出した後に発生する凝縮水(ドレン)を自動的に排出する装置のこと。蒸気は電気と比べて安価でタイヤ工場の加硫機や石油プラント、製紙工場、建物の冷暖房まで幅広く利用されている。その蒸気を余すことなく活用するためには、迅速にドレンを自動排出できることや蒸気を漏らさないことなどが求められる。また、長寿命で保守性に優れているかどうかも重要だ。

 トラップには「フロート式」「バケット式」「ディスク式」といった種類があるが、いずれも蒸気の漏れを防ぐことは難しく、また使用年数が進めば漏洩量が増える傾向にある。一方、ゼットエンジニアリングが2018年9月に開発した超多段型オリフィス式トラップ「STEAM‐Z TS型」はタイヤ加硫機向けに開発された製品で、蒸気の無駄漏れを極力無くしたことが大きな特徴だ。同社の村上仁士社長は「他社の既存製品とは全く別の製品になっている」と自信を示す。

 同社によると、「スチーム‐Z」の特徴は、①省エネルギーに貢献できる②生産性向上、製品品質の安定に役立つ③交換が不要になり管理費が減少④ウォーターハンマーを防止できる⑤他社製品と比べて重量は5分の1で省スペース⑥凍結防止対策に有効⑦イニシャルコストは数年で元が取れる――既に納入実績も多くあり、高い優位性が確認されているという。

「スチーム・Z」と既存のトラックとの蒸気漏れ量の比較(製品カタログより)
「スチーム・Z」と既存のトラックとの蒸気漏れ量の比較(クリックで拡大)

 特にエネルギーに貢献できるという点は、生産工程における脱炭素を担う一番のポイントだ。

 通常の機械式トラップは構造上、ドレンの排出時に多少の蒸気漏れを起こし、さらに経年劣化により漏れ量が多くなる。一方、「スチーム‐Z」は駆動部分が無いため、蒸気漏れがほぼ無くステンレス製で経年劣化はしない。そのため機械式トラップに比べて蒸気消費量を安定的に3~20%削減できる。同社による試算は次の通りだ。

 タイヤ加硫機には2本のタイヤを同時に加硫するタイプが多い。金属板(プラテン)の中に蒸気を入れて加熱し、1本の加硫に対して通常2個のスチームトラップからドレンを排出する。タイヤを連続して加硫している場合、トラップ1個あたり15~30kg/hの蒸気を消費。また、金型交換時などコールドスタートの際には最初の30分で蒸気を90kg/hほど消費する。このケースでは、他社製品ではコールドスタート時にドレンの排出が不十分で滞留を起こすことがあったが、「スチーム‐Z」は15~30kg/hのドレンを滞留することなく排出でき、コールドスタート時にも問題なく使用できることが実証されている。

交換不要で半永久的に使用可能

 もう一つ、重要な要素となるのが交換が不要になる点だ。機械式は、作動不良や経年劣化により、3~5年で交換することが少なくない。「スチーム‐Z」は、作動不良や経年劣化がないため、交換の必要がない――つまり「半永久的に使用が可能」であり、管理費の減少にも役立つというわけだ。

 同社は40年近く前に初めてオリフィス型スチームトラップを開発した。その当時から現在でも使用を続けている工場があり、高い耐久性は折り紙付き。ただ、「蒸気使用量の変動が大きい現場では適応域が狭いので使えない」という声も以前はあった。

 従来型の「スチーム‐Z」はドレンの最大排出量を100%とした際、最小は50%までに限定されていた。ドレン排出量が最大通過可能量の半分以下になる場合には蒸気を漏らしてしまうことになる。こうした使用上の制約は装置の構造上不可避な弱点と思われていたが、2018年に新開発した超多段型「スチーム‐Z」で課題を克服した。

 この新型では理論上、100%から最大値の数%程度までドレン量が減っても蒸気をほとんど漏らさないように使用可能変動域を拡張することができている。実際のテストでは100%から12・5%の範囲で確実に機能することを実証。これにより、ほとんどの熱交換器や蒸気主管に対応でき、汎用性は一気に高まった。

 タイヤ加硫機専用に開発した「TS1」はこの多段型オリフィストラップとなる。村上社長は「『スチーム‐Z TS1』は従来のスチームトラップの欠点を全て克服した全く新しいタイヤ加硫機専用のスチームトラップとなる。蒸気漏れが少なく、経年劣化せず、半永久的に使用できる」と話す。

 既に大手タイヤメーカーの工場で採用されており、他社製品と比較して省エネ効果も大きいなどと高い評価を得ている。

インタビュー/「リトレッド工場にも提案を」製品メリット活かし多数の採用実績

 ――蒸気管理の観点で、タイヤ工場が抱える課題は。

ゼットエンジニアリングの村上社長
ゼットエンジニアリングの村上社長

 「加硫機の配管に使用するトラップは故障することがありますが、どれがいつ故障するかは事前に把握することはできません。トラップは1つの工場で数千個設置しており、故障は突発的に発生して現場の方は夜中でも交換しなければなりません。一旦停止すると、また暖気する必要があるため、時間も蒸気もロスになってしまいます。

 こうした中、当社製品は故障がなく、メンテナンスフリーで使用できる点で注目されています」

 ――2018年に発売した新製品の特徴は。

 「従来製品は整流板が入っているだけで、ドレン量が落ちるとどうしても蒸気の漏れが大きくなることが課題でした。その課題をクリアするために超多段タイプを新しく開発し、現在はタイヤ工場にも新製品を採用して頂いています。内部に16枚のステンレス製のプレートを配置して圧力やドレンの変化を受け止めて、蒸気は逃さずにドレンだけを排出できるように工夫しています。

 また、取り付け方向を選ばないのも『スチーム‐Z』の利点です。フロート式やバケット式の製品は水平に装着しなければなりませんが、『スチーム‐Z』は斜めでも縦でも使用できます。さらに小さく軽量なので、一人で交換作業も可能です」

 ――コスト面については。

 「お客様ごとに事前調査などが必要なこともあり、初期コストは2倍程度となりますが、蒸気ロスが大きく減少するため1~2年で回収できると試算しています。国内大手タイヤメーカーのある工場では、加硫機と蒸気を流す主管で合計2800のトラップを付けていますが、2年以内に初期コストを回収できたと聞いています。トラップ交換に要するスタッフの人件費なども考慮すれば、そのメリットは一層大きくなるのではないでしょうか。

 さらに、近年は脱炭素への取り組みが強く求められています。蒸気を漏らして、燃料を無駄に使用するのではなく、いかに省エネ・省資源を実現できるかが重要です」

 ――今後への期待を。

 「世の中の流れを見ますと、今後、スチームトラップはオリフィス式しか残らないと思っていますし、採用して頂いたお客様から高く評価されています。今後は新品タイヤだけではなく、リトレッドタイヤ工場などにも提案していきたいと思います。

 3カ月間の無償お試し制度がありますので、『スチーム‐Z』を導入して頂き、省エネ・省資源・省メンテナンスといったSDGsに貢献するお手伝いをしたいと考えています」


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