日本ミシュランタイヤの須藤社長「将来、社会に認知される活動目指す」

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カテゴリー: インタビュー, 特集

 グループとして事業全体でサステナブル(持続可能性)への取り組みを強化している仏ミシュラン。グローバルで様々な提携を進めるなど、そのスピードを一段と加速させている。こうした大きな流れの中で日本市場でもこれまでにない変化が生まれ、果たすべき役割、その重要性が増してきている。今年4月に日本ミシュランタイヤの新社長に就任した須藤元氏にサステナブル化へ取り組む意義やミシュランが描く未来像、さらに国内でのビジネスの展望を聞いた。

 ――今年3月にミシュラングループとして2050年までにタイヤを100%持続可能にすると発表しました。その背景と目的を教えてください。

 「ミシュランには過去からサステナブルを提案しながらモビリティへ貢献していくという企業文化があります。例えば、今では当たり前になったタイヤの低燃費性能やロングライフ性能、あるいはリトレッドタイヤなど、以前から我々の信念として取り組んできました。

須藤社長
須藤社長

 今回、改めてサステナブルを強調したのは、大きな変化への対応があります。新型コロナウイルスによる世界的な危機が起き、考え直す機会になったことは確かです。原点に立ち返り、モビリティへ貢献してさらにサステナブルを加速することが私たちの存在意義になることを改めて認識しました」

 ――サステナブルでなくてはならない理由は。

 「サステナブルの定義は色々ありますが、ミシュランではまずカーボンニュートラル、そして原材料の100%サステナブル化を掲げています。循環型でなければ意味がないと思います。地球資源には限りがありますし、今だけではなく次の世代にもつながらなければなりません。そして何かを犠牲にしていないことも重要です。そうでなければ50年後、100年後に何かを失ってしまう可能性があります。

 我々が社会に存在できている以上、そこへ貢献することに意味があります。そのために何をしなければならないのか――今まで培ってきたモビリティの知見に加えてサステナブルの観点から貢献していくことができるはずです。

 サステナブルはミシュランのDNAでもあります。グループ内でそのDNAをどうやって保持して強めていくか、定期的に社員に問う活動も行っています。

 ある製品が何かを犠牲にした上で成り立っているのであれば、消費者に支持されないのは当然だと思います。今はインターネットなどで色々なものが見えるようになってきています。そうした中で不利益なものは支持されない社会になってきています」

 ――サステナブルへの取り組みの中で様々な提携を発表しています。

 「原材料を2050年までに100%サステナブル化するという目標があり、まずは2030年までに持続可能な材料の使用率を40%に高めます。2020年時点ではその割合は28%となっており、ハードルは低くないと思います。

 最近では2019年から仏アクセンス社、仏研究機関のIFPENと共同で石油由来のブタジエンに代わるバイオマスブタジエンの製造に取り組んでいます。また、カナダのパイロウェーブ社と提携し、廃ポリスチレンからリサイクルスチレンを製造しており、これはタイヤなどの合成ゴム製造に使用されています。それ以外にも仏新興企業と提携して、使用済みペットボトルを回収して再利用し、ポリエステルをタイヤ製造に使用することが可能となっています。

 タイヤの性能上、どうしても化石燃料に頼る素材はあります。ただ、性能よりもサステナビリティを重視して無理に変えてしまうのは良くない。安全でない、あるいはエネルギー効率が悪くなるというゼロサムゲームではなく、性能を向上しつつ、サステナブルにするという観点からチャレンジしています。

 色々な提携が立ち上がっていますが、それだけ力を入れないとこのコミットメントには到達できません。今後も素材に限らず、ビジネスモデルや回収などエコサイクル全体の中での提携は間違いなく増えていくと思います。自社で全てをやろうとしては選択肢が限られてしまいますし、より大きなエコシステムにすることが求められます」

 ――使用済みタイヤをリサイクルするため、チリに工場を建設することを発表しました。

 「タイヤのリサイクル状況は地域によって異なります。マテリアルとして使用したり、日本のように工場でエネルギーとして再利用したりするケースもあります。そうした中、カーボンニュートラルの観点から再生材料として活用を強化していきます。

 スウェーデンのエンバイロ社との合弁事業としてチリに初のリサイクル工場を建設し、2023年に稼働を始める予定です。チリ国内で廃棄される建設機械用タイヤのリサイクルからスタートしますが、その結果を確認しながら拡張していくことになります。

 2050年の目標に向けて、日本ではどういう選択肢が最適なのか、色々な可能性がある中で検討していくことになります。例えばマイクロパウダーにしてそれを別の製品に活用することも考えられます。

 群馬県の太田サイトでは3D金属プリンティングの研究開発を始めています。その中のひとつとして再生ゴムの活用に関する研究に着手しています」

 ――ミシュラングループとして2030年まで売上高を年平均5%伸ばし、非タイヤ事業の割合を20~30%にする計画を発表しました。

 「非タイヤ事業はグループとして力を入れていく分野で、今まであまり経験がない領域も含まれます。ゴムをマイクロパウダーにした場合、どのような効果があり、どう活用できるのかなど、地図がない場所へ行くようなもので、各国が一斉に探索モードになっています。

 日本は先進国の中でも非常に高いレベルのサービスや品質が要求される市場ですので、日本にある色々なニーズやヒントは他国でも活きてくる可能性はあると思います。日本の特徴を活かして発信していくことが、グループ、世界に対する貢献になると社員に話しています。

 コロナをきっかけに市場の変化が非常に早く、また不確定になっています。そのような中でタイヤ事業だけに集中してグループのコミットメントを実現できるのかというと大きな疑問が出てきます。

 色々と提携し、パートナーを増やしていかなければ新しいことはできません。新しいことには当然リスクはありますが、既存のビジネスのみに固執しているのでは自分たちの殻を小さくしてしまいますし、非タイヤ事業にも積極的に取り組んでいく必要があります。

 非タイヤ事業では医療用機器などがありますが、将来的に日本でもビジネスを行う可能性はあります。機器というよりそこに使用する材料のほうが可能性は高いと思います。機器を保護する膜や繊維など、タイヤでも活きるマテリアルを通じて貢献できるようになると思います」


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