住友ゴム白河工場 水素ボイラーを活用しカーボンニュートラル達成に取り組む

シェア:
カテゴリー: レポート, 現地

 住友ゴム工業はかねてより、ESG経営の推進を図りカーボンニュートラル実現に向け積極的に取り組む姿勢を打ち出してきた。2021年8月から福島県の白河工場で「水素ボイラーを活用したタイヤ製造」の実証実験を開始。それを活用し、今年1月から高性能タイヤの量産をスタートした。既報の通り4月18日、その現場を初公開。今回は白河工場の現場をレポートする。

水素ボイラーを活用しカーボンニュートラル達成に取り組む

 社会全体でカーボンニュートラルへの取り組みが進む中、同社がその達成に向け挑戦した施策の一つがタイヤ製造時における水素活用だ。

 タイヤの製造、特に加硫工程では100度を超える高温で高圧な蒸気を使用する。その蒸気を得るために従来、化石燃料である液化天然ガスを燃焼し用いていた。

 CO2排出量削減を図るために、エネルギー効率の高い設備を導入し、再生エネ由来の電力に切り替え購入するなど各種の施策を推進。しかしそのすべてを電力に置き換えることは困難で、それがタイヤ製造時のカーボンニュートラルで極めて高いハードルとなった。

「NEO−T01」に導入された水素ボイラー
「NEO−T01」に導入された水素ボイラー

 一方、乗用車用をはじめ各種タイヤを生産する白河工場では、超高精度メタルコア製造システム「NEO−T01」(ネオティー・ゼロワン)を高性能タイヤの生産工程に導入している。従来の製造システムと比較し非常にコンパクト化されたのが特徴の一つだ。

 蒸気を発生させる熱源としてボイラーで水素エネルギーを活用し、それで得た高温・高圧の蒸気を「NEO−T01」で使用する――。日本初の製造時(スコープ1、2)カーボンニュートラルを達成する実証実験を2021年8月から開始した。

 

 水素の地産地消モデルを構築

 

 ところで今回の取り組みでもう一つ、重要な意味を持つのが、水素エネルギーの地産地消モデルを構築する点だ。

 水素は多様な資源から作ることが可能という特性を持つ。工場が所在する福島県では「福島新エネ社会構想」を、白河市も「ゼロカーボンシティ宣言」を掲げ、地域ぐるみで次世代エネルギーの活用を推進している。そこで白河工場では水素エネルギーを活用する際、福島県産の水素を利用した。

 現在、郡山市のレゾナック・ガスプロダクツと、浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)からその供給を受けている。中でも後者は世界有数の水電解装置を備え、再生エネから水素を大規模に製造する実証プロジェクトを進めていることで知られる。

水素ボンベ運搬するトレーラー
水素ボンベ運搬するトレーラー

 福島県内で生産された水素は圧縮されボンベに充填。トレーラーで生産地から白河工場へと運搬される。トレーラーには21本のボンベを搭載し、それを4台、運搬用として稼働させている。

 運ばれた水素は工場内に設置された専用装置で受け入れるが、ここで1度、減圧される。受け入れ装置の水素は圧力差を利用した仕組みによって敷設された配管を通り、「NEO−T01」と結ばれた屋外の水素ボイラーへと装填。この段階で再び減圧される。2段階の工程を経るのは、減圧を一気に行うと温度が急速に上がるおそれがあり、安全対策の一環だ。

 また受け入れ装置やボイラーには漏れを検知するセンサーを設置。敷設の配管も路面に埋め込まずメッシュ状のカバーで覆うつくりとした。関係者は「漏らさない、万一漏れても直ちに検出し止める、漏れがあっても溜めない、という水素を取り扱う際の3つの基本的な考えを実践している」、このように説明する。

 なお、「NEO−T01」の24時間稼働によりボイラーで使用する水素の量はトレーラー1〜2台分に相当するという。

 また運搬に使用するトレーラーには側面に2種のアイキャッチが貼られている。「水素の力ではずむ未来へ」と「水素の力で、白河工場から新たな世界を切り拓こう!」がそれ。若手社員の応募から採用した。水素エネルギーの地産地消モデルを目指す同社の取り組みを地域で訴求するものだ。

 

 製造時スコープ1、2を初めて達成

 

 白河工場では従業員駐車場に屋根置き太陽光パネルを設置した。「NEO−T01」の混合や成形工程、検査工程などでそのエネルギーを使用。そしてこの1月から水素エネルギーを加硫工程で活用し、高性能タイヤ「FALKEN AZENIS(ファルケン・アゼニス) FK520」の量産をスタートした。

 この取り組みをベースに今後、「NEO−T01」以外の製造ラインや他の品種への用途拡大、国内・外の生産工場への技術展開についても検討を進めるという。2050年カーボンニュートラル達成に向け、水素利用技術の高度化を図り、課題の解決を目指す考えだ。

白河工場の外観
白河工場の外観

 ――白河工場(福島県白河市)の概要――

 操業開始:1974(昭和49)年8月 生産品目:乗用車用、トラック・バス用タイヤ

 生産能力:約10,350トン/月 敷地面積:600,600㎡ 建物延面積:182,000㎡

 住友ゴム工業の各種タイヤの量産工場として操業を開始しまもなく半世紀を迎える。生産規模は日本最大級。「自然との調和」「公害を出さない」「地域との密着」をスローガンに「地域に愛される工場」を目指す。

 

 ――高精度メタルコア製造システム「NEO-T01」――

 

 タイヤの各種部材を金属の成形フォーマーに貼り付ける「メタルコア工法」により、完成タイヤの形状で製造することを可能にした。併せてメタルコアへの部材貼り付けをコンピュータ制御システムにより100分の1ミリ単位でコントロールし加硫工程まで全自動化させた「全自動連結コントロール」、強靱な素材を補強部材として使用することができる「高剛性構造」の3つのキー技術を採用。さらに加硫時に従来のタイヤ製造システムで使われるブラダーを不要とした。これらにより高精度で高性能のタイヤ製造を実現。「NEO-T01」で製造したタイヤは高速走行ユニフォミティーを70%向上(従来タイヤ製造システムとの比較)。またタイヤの軽量化、高速走行時の形状変化を抑制するなど、タイヤの安全性能と環境性能、快適性能の大幅な向上を実現した。


[PR]

[PR]

【関連記事】