“タイヤから取得した情報”で安全・安心へ 住友ゴムの「センシングコア」

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カテゴリー: タイヤ事業戦略, 特集

 住友ゴム工業は今年2月に独自のタイヤセンシング技術「SENSING CORE」(センシングコア)を進化させ、タイヤの摩耗量を検知する技術を確立したと発表した。タイヤから取得した情報を活用してクルマの安全・安心にいかに貢献していくか――同社オートモーティブシステム事業部DWSビジネスチームリーダー兼ソリューション技術開発室主幹の川崎裕章氏に技術の概要と今後の展望を聞いた。

オートモーティブシステム事業部DWSビジネスチームリーダー兼ソリューション技術開発室主幹の川崎裕章氏
オートモーティブシステム事業部DWSビジネスチームリーダー兼ソリューション技術開発室主幹の川崎裕章氏

 「センシングコア」は、住友ゴムが2017年に発表した“タイヤの動的挙動に関する知見”と“車輪速信号の解析技術”を組み合わせることでタイヤに関する様々な状態を検知する技術。川崎氏は「将来のモビリティ社会、特に自動運転を見据えるとクルマが『自分のことを知る』ことが必要になり、避けて通ることはできない」と、その意義を話す。

 その上で、「『タイヤメーカーだからこそできるものは何か』を考えると、タイヤにまつわるセンシング技術だった」と話す。――タイヤにしか分からない、タイヤだからこそ把握できる情報をドライバーや車両へ伝えることが“交通事故ゼロ”の実現につながる。これが「センシングコア」の開発を推進する背景だ。

 この技術は同社が1997年から市場展開しているタイヤ空気圧低下警報装置「DWS」で培った技術がベースとなっている。空気圧を検知する方法にはタイヤバルブなどに圧力センサーを装着し、空気圧を直接計測する直接式と、車輪速信号から空気圧の低下を検知する間接式がある。それぞれ利点があるが、「DWS」と「センシングコア」は間接式を採用している。間接式の場合はタイヤそのものをセンサーとして利用でき、追加のセンサーが不要なためメンテナンスフリーであることが大きな特徴だ。

 これまで「センシングコア」ではタイヤ空気圧と荷重、路面状態の検知が可能だったが、今回、新たに摩耗量の推定ができるようになった。タイヤは摩耗が進むと溝が浅くなり、剛性が変化していく。この変化をタイヤの回転により発生する車輪速信号やエンジンなどの情報から推定することで摩耗の検知が可能になったという。

画面イメージ
画面イメージ

 摩耗の推定によりユーザーが得られるメリットの1つとして川崎氏は「安全・安心」を挙げる。タイヤは溝が減るとウェット路面で滑りやすくなるため、溝の状態はタイヤを管理する上で非常に重要だ。タイヤの摩耗量を自動で検知することで、ローテーションや交換を適切なタイミングで促すアラートを出せるようになる。タイヤを日常的に意識していないユーザーでも適正にタイヤを使用できるため、安全の向上につながる。

 一方、タクシー事業者やカーシェア事業者にとっては、安全に加えてコスト削減や効率性向上に寄与することも期待される。最適な交換時期が明確になり、結果としてダウンタイムの削減にもつながるだろう。さらに、空気圧や摩耗量に関するデータをクラウド経由で集中管理することにより、車両を1台ごとに点検することなくタイヤ交換の必要性の有無などを確認することも可能だ。今後、カーシェアが普及するなど、事業者の保有する車両台数が増加しても効率的な管理に貢献できそうだ。

 また、摩耗量をデータとして蓄積していけば、今後のタイヤ開発にも活用できる。川崎氏は「タイヤの回転信号で摩耗を推定しているが、走行距離だけではなく、どんな走り方をしているのかも分かるようになる」と話す。摩耗がどう変化していくのかは走り方により様々で、荷重条件にも影響を受ける。「センシングコア」ではこれらの情報を吸い上げることが可能で、タイヤ開発にとって有益な知見となる可能性もある。

データ活用で新たなサービスも

 現在、世界的にガソリン車から電気自動車(EV)への切り替えが推進されつつある。タイヤも車重のあるEVでの利用が増えると予測されており、耐摩耗性はタイヤにとって重要なパラメーターとなるだろう。摩耗量検知技術はEV化の流れに対応する鍵になるかもしれない。

使用したタイヤ
使用したタイヤ

 摩耗量の検知を実現する際に課題となったのは、エンジンの力が直接作用しない「従動輪」の推定だったという。例えば、FF駆動であれば前輪側が駆動輪、後輪側が従動輪となる。この技術では「タイヤにかかる力」と「車がどう進んでいるか」という力の関係を分析している。トルクのかかる駆動輪と異なり、従動輪は単純に言えば「回転しているだけ」という状態になり、タイヤの変化を観測するのが難しく、技術の確立に1年以上を要した。

 今回発表した検知技術では、まず駆動輪の摩耗量を推定し、それを利用することで従動輪のデータを割り出している。実用化は2023年を目指しており、モビリティ事業者向けのサービスから展開していく計画だ。一般ユーザーへのサービス開始時期は現時点では未定だが、将来に向けてブラッシュアップを進める。

 「センシングコア」全体では、3つのステップでサービスを展開していく方針を示す。まず、既に展開しているタイヤ空気圧低下警報装置「DWS」をアップグレードしてタイヤの摩耗量や路面状態などを知らせるアラート機能の実装を目指す。

 「DWS」は取材を行った3月時点では世界中で計4000万台以上の車両に採用されている。この技術はソフトウェアであり、すでに搭載している車両であっても、車載コンピューターの容量に空きがあればアップデートに対応が可能だ。摩耗状態や路面状態などの検知機能の搭載については、自動車メーカーなどに引き続き訴求する。

 次に、情報をクラウドにアップロードすることで複数の車両でデータを共有し、活用することを目指す。例えば、ある車両が検知した『この道が滑りやすい』といった情報を他の車両にも伝えることができれば、より安全な走行が可能になる。既に実験ではクラウドを介してタイヤから取得した情報の共有が可能になっており、自動車メーカーへの提案も強化している。

 最終的には、取得したデータを自動運転の制御に利用することを目指し、「センシングコア」を核とするソリューションビジネスの展開も視野に入れる。2025年以降に、外部パートナーと協業してトータルソリューションを提供していく考えで、協業先は自動車メーカーに限らず、自治体や道路公団なども含めて必要な知識や技術を持つ外部との連携を図る。

 センシングコアの対象は当初は乗用車からスタートする見通しで、技術的なハードルをクリアした上で小型トラックや、大型トラック、バスのような商用車への応用も検討していく。

 川崎氏は「ソリューションという言葉は漠然として大きな言葉だが、つまりはお客様の困りごと解決だ」と話し、「一般ユーザーや事業者などの悩みを解決できるようなサービスや技術を展開していきたい」と意欲を示す。さらに、現在もニーズがあるものの、技術的に対応できない問題についても解決の糸口を探り、将来的には今の世の中には無いような新しいソリューションサービスを生み出していく可能性もある。

 CASEやMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)など、自動車産業の変革が進む中、タイヤにも新たなモビリティ社会への適応や貢献が求められる。「今、タイヤがどのような状態なのか」をデータとして取得して活用する「センシングコア」は、より安全・安心なモビリティ社会の実現に大きく寄与するだろう。


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