モータージャーナリスト瀬在さんと、前後異サイズのタイヤ装着車に乗りながら
スカイラインGT NISMO/レクサスRC350
(1)スカイラインGT NISMO(前編)
速く、楽しく、気持ち良く走る
クルマはほとんど4輪とも同じサイズのタイヤが装着される。だが、前後でサイズの異なるタイヤが純正装着されることがある。とくに、輸入車やFR(後輪駆動)のスポーツカーにその傾向が強いようだ。前後輪でタイヤ幅の異なるケースや、タイヤのリム径に差のあるケース。前後異サイズタイヤと総称されるが、新車装着時になぜ、その選択がとられたのか。瀬在さんが運転するスカイラインGT NISMO、レクサスRC350に同乗し、モータージャーナリストの立場から解説してもらった。(3回連載の1回目。スカイラインGT NISMO編の前半)
回転方向指定・左右
非対称・前後異サイズ
――住友ゴム工業はニッサンGT−R NISMO(ニスモ)専用タイヤ、DUNLOP「SPORT MAXX (スポーツマックス)プロト」をメディア関係者に公開。同社と日産自動車は1月9日と10日の両日、茨城県の筑波サーキットで「SPORT MAXX プロト」装着のGT−R NISMOを使いタイムアタックを実施した。同車のステアリングを握った飯田章選手は9日のアタックで58秒820をマーク。市販車最速タイムレコードを更新した――。本紙のバックナンバー「24年1月24日付・第2827号」「2月7日付・第2829号」からの再掲だ。
ニッサンGT−R NISMO(24年モデル)専用タイヤとして、「SP SPORT MAXX GT600 DSST プロト」を開発中の住友ゴム。開発に際してその性能指標の一つにサーキット走行の速さを掲げる。19年に自ら樹立した、筑波サーキットタイムアタックでの市販車最速記録59秒361。それを破ることが、同記事で紹介したタイムアタックの最大のテーマだった。
タイムアタックでGT−R NISMOに新車装着されたタイヤ、「SP SPORT MAXX GT600 DSST プロト」はフロントサイズ255/40ZRF20、リアサイズ285/35ZRF20。タイヤのリム径は前後ともに20インチだが、前輪よりも後輪のほうが偏平率はより低く、トレッド幅は広い。
タイヤの摩耗を均一化するためにタイヤのローテーションを行うことが推奨される。本紙読者には「釈迦に説法」となるが、確認の意味で記す。ローテーションは通常、前輪を後輪に、後輪を前輪に入れ替え、回転方向の指定がないタイヤは位置関係で対角線にある『タスキ掛け』で交換し、その際に回転方向も逆にする。回転方向指定タイヤの場合は、左側は左側同士、右側は右側同士で前後を入れ替え、回転方向を逆にしてはならない。
回転方向が指定されている。トレッドパターンがアウト側とイン側とで非対称である。前輪と後輪とでトレッド幅やリム径のサイズが異なる――この場合はタイヤをローテーションすることは不可能だ。
これは前後左右、それぞれのタイヤが1本ずつ強力なアイデンティティが確立されている、と表現できるのではないか。実車に試乗することで、その意味合いを体感することが可能となる。冒頭の筑波サーキットでのタイムアタックを現地取材する直前に、GT−R NISMOに近い存在のニッサンスカイラインGT(2019モデル)NISMOに、本紙編集部は試乗していた。
GTカーの集大成
性能を発揮するため
日産のスポーツカーの歴史は、そのままスカイラインの誕生から現在の流れをたどることにほかならない。スカイラインは日産のフラッグシップスポーツカーなのである。
今回、試乗したスカイラインGT NISMOは「スカイライン 400Rをベース車両に、NISMOが専用設計したハイパフォーマンスロードカー」(瀬在さん)だ。NISMOによるGT(グランドツーリング/グランツーリスモ)カーの集大成として開発された。その思いが込められたのだろう。車両には懐かしい、赤と白の「GTバッヂ」が貼られている。
GTカーとしての性能はロングツーリングで〈ファン・トゥ・ドライブ〉をどう具現化するかにかかる。それは〈速く〉〈楽しく〉〈快適に〉という言葉に変換することができるのではないか。
空力性能やボディ剛性もそうだが、とくにエンジン出力は400Rが405PS(馬力)なのに対し、このスカイラインGT NISMOは420PSと大幅にアップした。エンジン特性もトルクフルにチューンアップされたことで、475Nmから550Nmへと75Nmアップした。加速したときにその伸びが持続する。
瀬在さんは「サスペンションは、フロントのスプリングレートがアップ、リアはスタビレートのみがアップされた。つまり、リアのロール剛性を高めたということです」と解説する。その意図を「スプリングを堅くしないことで車両のピッチングを抑え、走りに粘り感を出すこと。スタビリティを高めることにあります」と続ける。
高速道路を走行する。速度を上げレーンチェンジし、前を行くクルマを追い越す。再びレーンに戻る。加速したときの伸び、ハンドルを通じて伝わる手応え――ドライバーの意思のとおりに正確に動くという。「気持ち良く、安心して走ることができるというのが一番のポイントですね」と、瀬在さんは印象を語った。 (つづく)
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=
モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。