夏季特集号 特別インタビュー 住友ゴム工業 代表取締役社長 山本 悟氏

 ――21年に発表されたサステナビリティ長期方針でESG経営への取り組み推進を明示されています。

住友ゴム山本社長
住友ゴム山本社長

 ESG経営は当社の事業運営の柱として腰を据えて取り組んでいるところです。「はずむ未来チャレンジ2050」で環境・社会・企業統治の各テーマに則った施策を掲げ実行しています。

 環境ではまず、カーボンニュートラルへの取り組みが非常に重要なテーマとなります。先日、当社白河工場でお披露目を行いましたが、高精度メタルコア製造システム「NEO−T01」の生産ラインに次世代エネルギーである水素と太陽光発電を活用することで、製造時Scope1、2のカーボンニュートラルを達成した量産タイヤを製造しました。また、2017年基準で2030年CO2排出量50%削減、2050年カーボンニュートラルの達成を宣言しました。それに向け着実に歩みを進めています。

 白河工場で積み上げた技術や設備を国内の他工場、あるいは海外工場へと拡げていくこととなりますが、日本初となる技術を当社の国内工場で開発することができたのはとても大きな喜びです。水素については、福島県での地産地消が目標の一つでもありましたので、このテーマを実現できたのも嬉しく思っています。

 またゴム技術で、サステナブル原材料の取り組みに注力しています。再生可能なバイオマス原材料、リサイクル原材料など、サステナブル原材料比率の拡大に取り組んでおり、タイヤでは2030年にその比率を40%、2050年には100%を目指しています。

 当社では既に、スタッドレスタイヤ「WINTER MAXX 02」(ウィンターマックス・ゼロツー)に液状ファルネセンゴムというサトウキビ由来のバイオマス原材料を、低燃費タイヤ「エナセーブ NEXTⅢ」にはセルロースナノファイバーという高機能なバイオマス原材料を採用しています。リサイクル原材料としては再生カーボンや再生スチールなどの開発を進め、サステナブル原材料技術の積み重ねを行っています。

 

 ――タイヤ事業における循環型サーキュラーエコノミー構想を策定されました。そのエッセンスを解説してください。

 企業が事業活動を行っていく上で、気候変動の影響拡大を背景としたカーボンニュートラルへの急激なシフトや、労働・人権問題など様々な社会的課題への対応ということが強く求められるようになっています。このような外部環境の変化に、企業は対応しなければなりません。さらにモビリティー社会ではCASEやMaaSという100年に一度の大きな変革期に直面しています。

 こういう変革期の中で、当社は企業理念体系である「Our Philosophy」(アワー・フィロソフィー)、その「Purpose」(パーパス)である「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」を具現化するためのESG経営を推進しています。

 これまでの取り組みをより具体化する、当社独自のサーキュラーエコノミー構想として発表したのが「TOWANOWA」(トワノワ)です。企画・設計、材料開発・調達、生産・物流、販売・使用、回収・リサイクルという各プロセスから成るサステナブルリングに、AIやビッグデータ、センシングコアを活用するデータリングを組み合わせた循環型ビジネス構想です。

 サーキュラーエコノミーは一般的に物の資源循環をイメージされることが多いかもしれません。「TOWANOWA」はデータに基づく経営をサーキュラーエコノミーの概念にも取り込むことで、新たな付加価値とサービスをご提供していくことを目指しています。

 具体的な例を挙げると、当社のセンシングコア技術によりタイヤ使用時のデータが集積されていきます。これらのデータを、先ほどご紹介した生産のグローバル標準プラットフォームであるPLMやMESと連携させ、ビッグデータ、シミュレーション技術、AI技術に活用しサステナブルリングで新たな価値を生み出していくものです。

 またセンシングコア技術で得られたデータをサステナブルリングに融合することで、例えば設計段階から使用環境を反映した性能をタイヤに取り込むことが可能となります。また例えばリトレッドタイヤ用の台タイヤの選定に活用する、タイヤ生産・販売の局面でみられる在庫の滞留を抑制する、スタッドレスタイヤの鮮度管理に運用するなど、データリングとサステナブルリングを組み合わせることで、お客様へご提供する価値を一層高められると考えます。「TOWANOWA」により持続可能で安心安全な社会、さらに快適な社会の実現に貢献していきたいと考えます。

 

 ――新中計にかける想い、意気込みを。

 新中計では「Our Philosophy」の具現化を謳っています。タイヤ事業ではCASE、MaaSへの対応を図るため、これまでスマートタイヤコンセプトを積み上げてきました。24年にはそのスマートタイヤコンセプトにより進化させたタイヤとして、アクティブトレッド技術の一部を先行搭載した次世代オールシーズンタイヤを発売します。このアクティブトレッドは様々な路面状況をタイヤが感知し、その路面状況にふさわしいゴムに変化するというタイヤです。

 兵庫県にある大型放射光施設SPring−8や、スーパーコンピューターの富岳など地の利を活かし研究開発に活用しタイヤ技術を高めてきた成果だと考えます。

 また、センシングコアにはグローバルで新車メーカーや様々な企業の皆様から注目をいただいていますが、これを事業化し、その機能をさらに拡張していく方針です。

 センシングコアはDWS(デフレーション・ウォーニング・システム)という間接式の空気圧警報装置がベースとなっています。DWSはこれまで5000万台以上もの採用実績があり、当社には30数年培ってきたノウハウがあります。

 センシングコアについては、タイヤ空気圧、タイヤ荷重、タイヤ摩耗、路面状態の情報を検知するという四つの機能を発表していますが、これらはタイヤからしか得られない貴重なデータです。路面と接する唯一の部品であるタイヤのみから得られるデータを、センシングコアを通じてご提供することでドライバーやユーザーの皆様の安心安全に必ず繋がります。

 また、センシングコアは車輪の回転速度の変化を読み取って状況を察知するソフトウェアですから、追加のセンサーは必要なく電池も不要です。メンテナンスフリーで故障しません。この四つの機能に加えて、車輪脱落の予兆を検知する取り組みを進めています。センシングコアの新たな価値の創出を目指しています。

 

 一方、当社独自のタイヤ技術に特殊吸音スポンジがありますが、この静音化技術がEVタイヤに欠かすことのできないものとなっています。EVは走行音が大幅に減少していますので、そのタイヤには走行中に発生する空洞共鳴音をいかに低減するかが強く求められます。当社の先行技術である世界初の特殊吸音スポンジはEV用タイヤの静粛性向上にも大きく寄与しています。

 またIMS(インスタントモビリティシステム)というタイヤパンクの応急修理キットがあり、当社はその分野においてグローバルで高シェアを占めています。これもEVには不可欠となっています。と申しますのも、EVはリチウム電池を車載しますのでその設計上の観点と、車両重量が重くなることから、5本目のタイヤを積むことが非常に難しい。EVにはスペアタイヤに代わるIMSが必要不可欠となっています。

 ところで特殊吸音スポンジ搭載のタイヤがパンクしたときに、このIMSを使用すると、注入されたIMSの修理材をスポンジが吸い取ってしまい吸音機能を発揮しなくなる恐れがありました。しかし、当社では、IMS、吸音スポンジ、両方のノウハウを有していますので、IMSの修理材を注入した場合でもスポンジの吸音機能を維持できるようにしています。

 センシングコア、IMS、特殊吸音スポンジという、EV化でタイヤに要求される性能について当社はワンストップで対応することが可能です。EVタイヤで他社と差別化できる技術を有し総合的に対応することができる――これは大きな強みです。

 新中計をベースに、「Our Philosophy」の具現化に全社一丸で取り組みます。タイヤ販売店の皆様をはじめ、すべてのステークホルダーの皆様に「最高の安心とヨロコビ」をお届けし、当社の企業価値の向上に努めて参ります。


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