タイヤの“生産財化”に向けて――横浜ゴム「TPRS」の展望

 横浜ゴムは、今年8月にタイヤ空気圧遠隔監視システム(TPRS=Tire air Pressure Remote access System)の実証実験を開始するなど、タイヤ市場や関連サービスの変化に対する取り組みを積極化している。その目的や今後の市場動向について、タイヤ国内リプレイス消費財第一営業部の上井清部長、タイヤ国内リプレイス営業企画部の野村賢弘部長、タイヤ国内リプレイス消費財第一営業部営業1課の古谷亘課長補佐、消費財製品企画部の白井顯一主査に取材した。

利便性で顧客に価値を提供

 横浜ゴムは、CASEやMaaSによるタイヤ市場の変化として、“消費財タイヤの生産財化”が進むと予測する。これは個人所有の車が減少し、人や物の移動を支えるインフラ車両が増加するというものだ。言い換えればタイヤメーカーにとっての顧客が“個人”から“法人”へと変化することになる。

タイヤ空気圧の遠隔監視システム(TPRS)の実証実験イメージ
タイヤ空気圧の遠隔監視システム(TPRS)の実証実験イメージ

 その法人向けの一例がカーシェアリングだ。上井部長は「市場における消費財タイヤの生産財化が進めば、カーシェアなど『必要な時に借りる車』にタイヤを提供する機会が増えていくと予測している」と説明する。

 同社によると、2019年時点の国内のシェアリング車両は前年比15%増の4万台、会員数は25%増の200万人に達している。10年前の2009年は車両が1300台、会員数は1万600人と、この10年で急激に市場が伸長していることが分かる。また、カーシェア利用者の中で50代以上の構成比も伸びている。ある調査によると、この年齢層の利用者は15年前に全体の16~17%だったものが、2018年には23%に拡大しているという。シェアリングは若い世代だけではなく、その利便性の高さから幅広い年代に普及しつつあると言えそうだ。

 あわせて、上井部長は「昨年からの新型コロナウイルスの影響により、『自分の車を持ちたい』という方も増えてきている一方で、この10年のカーシェアの拡大傾向は止まることはないのではないか」と見解を示した。

 カーシェアリングは駐車場などのスペースを調達するのが難しい都市部を中心に伸びている反面、地方ではあまり浸透していないという。土地があり通勤・通学用など一人一台所有する家庭も多く、さらにコロナの影響でクルマが移動手段として見直されていることも影響している。

 ただ、感染状況が落ち着き、人の移動が再び活発になる頃には、出張先の駅から利用するような、「ちょっとした移動にも活用されていくのではないか」(野村部長)と予測される。

 このような流れの中、これまでは消費財タイヤとして使用されていた製品が事業者向けに生産財タイヤとして使用される  これはどのような変化を生み出すのか。

(左から)白井主査、野村部長、上井部長、古谷課長補佐
(左から)白井主査、野村部長、上井部長、古谷課長補佐

 生産財化が進むと、安全性に加え、メンテナンスの省力化・計画化に寄与しつつ、稼働率を高める性能がより重要になってくる。従来の耐摩耗性能や低燃費性能といったコストパフォーマンスを高める性能だけではなく、タイヤの異常をいち早く察知し、素早く対応するための機能が求められるようになる  これが横浜ゴムの想像する将来のイメージだ。

 タイヤにとっての大きな変化はデジタルデータを取得できるセンサーとしての役割が期待される部分にある。カーシェアをはじめとしたモビリティサービスでは不特定多数の人が同じ車両を使用する。野村部長は「ユーザーが初めて乗った時にそのタイヤがどういう状況なのか把握することは難しい」とした上で、「何らかの異常があった時に、すぐに察知できるかどうかが重要なポイントになる」と話す。

 また、利用者自身が直接タイヤを選ぶことができないため、より一層安全をサポートする能力も求められる。

実験でメリットの確認・検証を

 横浜ゴムでは、8月にオリックス自動車とともに「TPRS」の実証実験を開始した。今回は、オリックス自動車のカーシェアリング事業であるオリックスカーシェアの車両にシステムを導入し、東京都および神奈川県で実施している。

 「TPRS」はタイヤの空気圧や温度、車両の位置情報をリアルタイムでリモート監視することができるシステム。タイヤメンテナンスの大幅な省力化に加え、点検のバラつき防止や異常検知による事故防止、適正な空気圧維持による燃費向上などに貢献することを目指しており、検知データはリアルタイムでクラウドサーバーに保存することができる。

 実験では、“乗用車タイヤの生産財化”への対応に向けて、実際に多くの車両を運用するカーシェア事業者の協力を得てデータを蓄積していく。野村部長は「取得したデータを集約した結果、法人のお客様、使用するユーザーの方々にメリットを感じて頂けるか、安全安心だと思って頂けるか、そういった価値を提供できるビジネスモデルを我々ができるのかということを検証していきたい」と意気込みを示す。

 シェアリング事業やレンタカー事業を展開する法人にとっては車両管理を省力化し、タイヤにトラブルが起きないようにできるかどうかは一つのキーになっている。特に、使用中はタイヤに不備があったとしてもその場で現物を確認できないこともあり、遠隔管理に強い関心が寄せられているという。

省力化や省資源、効率化に寄与

 多数の車両を運用する事業者では、当然ながら車両の管理や空気圧などタイヤの管理も全てドライバーではなく法人や会社側が担う。主要な点検項目の一つとなるタイヤの空気圧のチェックは、作業者が一台一台空気圧ゲージをあてて測定するなど手間と時間が必要となる。現場での作業負担となっていることは想像に難くないが、適正な空気圧を維持できているかどうかは走行時の安全や燃費に関わるのでおろそかにはできない。

 白井主査によると、空気圧が適正値より50kPa低下した場合、燃費は3%程度悪化するという。「きちんと管理していれば、無駄な資源や経費を使わずに済む」と適切な空気圧管理のメリットを挙げる。従来から抱えてきた作業負担を減らし、遠隔で一元的な管理が可能になれば、軽労化や省力化を進めた上でコスト削減にも寄与することが期待できる。

 横浜ゴムが開発した「TPRS」では、作業者が持つ端末でタイヤの状態をチェックできるほか、走行中もクラウドにデータを送信し、パソコン上での遠隔管理を可能にした。事業者が所有する車両全てにシステムを適用すれば、空気圧に関しては従来通りの点検作業は不要になる。将来的に広く展開すれば、現場の負担は大きく減少するだろう。

 ただ、センサーなどの導入には「それなりのコストが必要」と野村部長は指摘する。「そのコストをどのように相殺していくのか、その上で安心や安全を生み出せるのか、タイヤの販売にもつなげていけるのか」などが今後の課題となってくる。

 上井部長は「実証実験を通じて、何ができるか、もしくはお客様が何を求めているかを把握し、ビジネスモデルを構築しなくてはならない」と今後の展望を示した。

 100年に一度の自動車業界の変革が起きている中、タイヤも変化への対応を迫られている。「これまで『タイヤを売る』ということは、乗り心地を良くすることやウェットグリップを向上するなど性能と価格のバランスで販売してきた」と白井主査は話す。一方で、空気圧管理などのソリューションサービスを含めたタイヤの販売に対応できるかどうかが今後のビジネスでの要になる。

 「当社は国内で一定のシェアがあり、販売網とお客様をすでに確保している。そこで、お客様がより使いやすいシステムを開発することでアドバンテージができるのではないかと考えて実証実験をしている」(白井主査)。

 シェアリング事業における車両や会員数の増加が示すように、社会の中での車の使われ方には確実に変化が起きている。それに伴いタイヤのあり方がどう変わっていくのか  その潮流を読み、時代の流れに対応しつつユーザーに価値を提供するため、横浜ゴムの取り組みは続いていく。


[PR]

[PR]

【関連記事】