タイヤショップが取り組む「ローテーションが当たり前の社会」

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カテゴリー: ディーラー, レポート

 埼玉県熊谷市に本社を構える国分商会は、使用済みタイヤを新たな資源に変えるリサイクル事業や、貿易事業、ショップ事業などを展開している。小売部門のタイヤショップマークでは「タイヤを少しでも長く使ってもらいたい」という思いから、数年前に乗用車ユーザーに向けてローテーション事業の積極化を始めた。

 空気圧点検やスリップサインのチェックなどと並んで、安全な走行のためにはローテーションの定期的な実施が欠かせない。タイヤ溝の偏摩耗を予防し、均一に摩耗させることでタイヤをより長く使用できる。

 トラック・バス業界ではローテーション作業の普及が進み定着化する一方で、乗用車を運転する一般ユーザーの認識は未だ浅い。

ローテーションの認知度向上を図るために作成したイラスト
ローテーションの認知度向上を図るために作成したイラスト

 マークがローテーション事業に注力する理由のひとつには、ユーザーのタイヤへの関心を高めたいという強い意思がある。きっかけは、タイヤ交換に訪れたユーザーだった。ガソリンスタンドでタイヤの残り溝を指摘されてマークに来店したが、実際に確認してみるとローテーションで解決できた。こうしたケースは少なくないという。

 マーク熊谷店店長の成田雄介氏は「消耗品で何万円もするものを買って頂いているからこそ、自分が履いているタイヤの状態をユーザーさんがもう少し意識するべきではないか」と問いかける。

 こうした中、マークは1年以上前から啓発活動の一環として独自に作成した「タイヤ手帳」を店頭で配布している。これはお薬手帳のように、タイヤショップ同士とユーザー間で装着タイヤに関する情報の共有化を目的とするもの。

 新品タイヤを購入したユーザーに装着時の空気圧やローテーションの時期を記入して渡し、最初のローテーションへの意識を促してきた。地道に続けた甲斐もあって、その必要性を意識し始めたユーザーが月に10台程、定期的に訪れるようになった。

 徐々にローテーション作業の普及に広がりが見えてきたものの、マークが目指す“当たり前”には至っていないのが現状だ。インターネットでも価格面に関しては検索するユーザーは多くいるが、タイヤを長く使うためのケアの部分を調べるユーザーは少ないという。商品カタログでその必要性が紹介されていても、掲載は最後の方のページで目を引きにくい。

 これらの課題に対して、マークは「ローテーションの認知度の向上」を第一に掲げ、5月末から新プロモーションを開始した。それがオリジナルキャラクターを起用したイラストだ。

 現在は店内の待合スペースに掲示し、ローテーションの必要性をわかりやすく訴求している。親しみやすいキャラクターが15枚のイラストの中で回転癖や振動などの問題点を挙げ、その解決策のひとつとしてローテーションを紹介する。

 これにより、一般のユーザーにローテーションを含めたケアの部分に興味を持ってもらい、そこからタイヤについて理解を深めてもらうことを目指す。自分に合ったタイヤを知ることで、「単純に安いタイヤが欲しいという人も減る」といった相乗効果も期待できる。

マーク熊谷店の成田店長
マーク熊谷店の成田店長

 新たな訴求方法を展開する一方で、従来の口頭での啓発にも工夫を重ねてきた。例えば、ローテーションの説明は最初の商談で話すことを心掛けている。

 店側はタイヤの性能を長持ちさせる目的で提案をしても、商品の販売後に作業工賃とともにローテーションについて説明するとユーザー側が啓発ではなく営業として捉えてしまうケースがあるからだ。

 成田氏はその複雑さを次のように話した。「ユーザーさんも新品タイヤを買いに来ているので、商品を選んで終わりという感覚がある。ローテーション作業の説明をすると『さらにプラスアルファで売りつけられるのかな』という空気感を感じることもある」

 また、朝礼ではロールプレイを取り入れて、スタッフの販売側としての意思統一を図っている。ローテーションの作業工賃よりタイヤを販売する方が売上としては大きいため、そのギャップに対して販売スタッフが一度意識を変えてユーザーに説明する必要がある。

 熊谷店には現在計10名のスタッフが在籍しており、全員が販売と作業を兼務する。ロールプレイを通してローテーションの必要性やメリットなどを説明できるよう教育し、一人ひとりがユーザーからの質問に答えられる体制を整えている。

 今後は、さらなるローテーションの認知度の向上に向けて、イラストを活用した動画の制作を予定している。内容は現在検討中だが、冬など作業を屋内で待つ時間が長いときにはユーザーの目に入る機会が増えるため、それまでの公開を目指す。

 そのほかにも、ユーザーの利便性に沿った提案でローテーションの実施を促進させることも思案中だ。成田氏は「オイル交換が3000kmに一回、ローテーションが5000kmに一回といわれている。タイミングが合致したら、一度の来店で全部のケア作業ができるかもしれない」と展望を示す。

 商品の購入だけではなく、ケアの部分にも興味をもってもらう――「ローテーションが当たり前の存在になること」に向けて、より効果的な訴求方法の模索は続く。


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