ミシュラン「TPMSクラウドサービス」開始から1年 成果と展望は――

 日本ミシュランタイヤが昨年6月から提供を始めたIoT(モノのインターネット)を活用したトラック・バス用タイヤの管理システム「ミシュランTPMSクラウドサービス」。タイヤメーカーとして国内で初めて実用化したもので、装着したタイヤの情報をIoTで可視化できることが最大の特徴だ。これにより、ドライバーだけではなく、運行管理者やタイヤ販売店などがリアルタイムで情報を共有でき、事故やトラブルを未然に防ぐことが可能となる。“モビリティの発展”を使命とするミシュランにとってこのサービスは、人手不足が深刻化する物流業界の課題を解決する重要なソリューションの一つと位置付けている。サービス開始から1年が経過し、実際に使用しているユーザーではどのような効果が生まれてきたのか、またミシュランはどのような将来像を描いているのか――それぞれの動きを取材した。

 TPMS(タイヤ空気圧監視システム)は、タイヤにセンサーを取り付けて空気圧やタイヤ内部の温度が基準外になると警報を発するシステム。海外では一部地域で装着が義務化されるなど普及が進んでいるが、国内での導入はまだ多いとは言えないのが現状だ。

X Oneを装着したトラック(群馬県の貴で)
X Oneを装着したトラック(群馬県の貴で)

 一方、日本ミシュランタイヤはスペアタイヤを積載しないワイドシングルタイヤ「X One」(エックスワン)はもちろんのこと、特にトラック・バス用タイヤのユーザーに対して以前から装着を推奨してきた。その背景にはタイヤの状態を常時管理することで、運送事業者の安心・安全を確保し、結果として効率化にもつながるという考えがある。

 「TPMSクラウドサービス」は、それを一歩進めたものとなる。TPMSで得た情報をクラウド上で可視化し、複数の車両情報を手元のスマートフォンやパソコンなどの端末で一括監視できる。タイヤの空気圧や温度が設定値を超えるといったトラブルを検知すると、運行管理者やタイヤ販売店にも位置情報やタイヤ情報がメールで通知される仕組みだ。こうした体制を整えることで事故やトラブルを未然に防ぐことが期待される。

 同社B2Bタイヤ事業部マーケティング部の尾根山純一マネージャーは「このサービスを活用して余計なコストの発生を避けることができたお客様もいる」と話す。

スマートフォンに表示したタイヤ情報(群馬県の貴で)
スマートフォンに表示したタイヤ情報(群馬県の貴で)

 ある運送会社でタイヤ空気圧の低下が原因で警告が表示されたが、その時のドライバーは若く経験が少なかったため、即座にレスキューサービスを依頼することを考えたという。一方、運行管理者は管理画面に表示されるグラフデータから「このエアの減り方はスローパンクチャーだ」と判断し,位置情報を確認した上で「様子を見ながら戻るように」と指示。無事に帰社することができ、結果的に追加コストを負担せずに済んだ。このケースでは、複数でタイヤ情報を確認できるという「TPMSクラウドサービス」のメリットが発揮された格好だ。

 ユーザーの立場からこのシステムを、「予防として有効になるのでは」と評価するのは群馬県邑楽郡にある運送会社、株式会社貴(たか)の野本秀夫社長だ。

 同社は産業廃棄物の運搬をメインにしているため、釘や石などが落ちている最終処分場を走行することが多く、以前からパンクに悩まされていた。春山裕司取締役業務部長が「車両をほぼ1日休ませるのと同じで、パンクによる休車のリスクは大きい」と話すように、一旦パンクしてしまえば、レスキューを呼び、タイヤを交換するために数時間ものロスが生じてしまう。

運転席のTPMSモニター(群馬県の貴で)
運転席のTPMSモニター(群馬県の貴で)

 こうした課題を解決するために、様々なメーカーのタイヤを試した結果、最も効果を発揮したのが「X One」だという。2013年に初めて導入して以降、パンク率の低下だけではなく、ライフや燃費といった面でも成果が得られ、今では4割ものタイヤコストの削減を実現した。

 「X One」の場合はTPMSとセットで装着することが多いため、同社でも8台のトレーラー、2台の大型車で既にTPMSの運用を行っていたが、昨年10月にこのうち1台をクラウドサービスとして契約。現在までタイヤのトラブルは起きていないが、「何台でも管理できるのがメリット」(野本社長)としており、将来は新車を導入するタイミングで追加契約を検討していく。

 「TPMSクラウドサービス」は端末のリース代金以外では毎月の通信費用として980円(税別)が必要になるが、機能をタイヤ管理に特化させたことでコストを抑えたという。

 尾根山マネージャーは、「デジタコを必要としていない、または通信費を負担に感じるお客様にとって手軽に使用できるサービス」と述べ、幅広いユーザーに向けてそのメリットを訴求していく考えを示す。

貴の野本社長(左)と日本ミシュランタイヤの尾根山マネージャー
貴の野本社長(左)と日本ミシュランタイヤの尾根山マネージャー

 物流業界の省人化と遠隔操作による作業効率化を目指す「TPMSクラウドサービス」はミシュランが掲げる使命“モビリティの発展”に貢献するソリューションにつながるという。サービスを開発した背景には「トラックを動かすドライバーがいないとタイヤは売れなくなる」という危機感もあった。

 業界全体で人手不足が叫ばれる中、今後は高齢や女性ドライバーの活躍も期待されている。そのためには運転をサポートする安全装備や身体的負担を軽減するシステムも必要となってくる。こうした状況に対して尾根山マネージャーは次のように強調する。

 「色々な装置を付けるには軽量化が求められる。そのためには『X One』が有効だが、スペアは無いのでTPMSが必須となる。そして、タイヤの情報を見る人を多くすることで、どのような方でも安心して走行して頂ける」

 日本ミシュランタイヤが国内市場で「X One」を発売したのが2007年。徐々に装着件数は増えてきており、今年6月には購入前にその性能を確認してもらうためのレンタルサービスも開始して注目度がより高まっているという。同社では2020年末までに「X One」の装着台数を2000台まで拡大させる方針で、その半数にあたる1000台で「TPMSクラウドサービス」の契約を獲得したい考えだ。

 今後、ライバルメーカーからも同様のサービス展開が予想される中、業界に先駆けることで実績と顧客からの評価を積み重ね、サービスの改善にもつなげていく。


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