兵庫県の西日本タイヤ 老舗OTR専門店の矜持

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カテゴリー: ディーラー, レポート

 鉱山での資源開発で使われる大型ダンプや、工事現場を整地するグレーダーなどに装着されるOTR(Off The Road)タイヤ。資源国をはじめ海外市場では強需要で推移し、国内市場でも中・小型を中心に堅調な販売が続く。過酷な使用現場で重荷重の車両を支えるタイヤだけに高い知見と高度なサービス技能が不可欠な分野だ。そのOTRをメインに扱っているのが西日本タイヤ(兵庫県川西市、神田泰之社長)。コロナ禍で「厳しい環境下に置かれている」(神田社長)と言うものの、その強い存在感は褪せることはない。およそ10年ぶりに同社本社を訪れた。

 本社の所在地は兵庫県川西市加茂5-3-3。主に東日本地区の拠点となる仙台営業所(宮城県仙台市宮城野区)や、ウレタン製ノーパンクタイヤの加工を行う猪名川工場(兵庫県川辺郡猪名川町)、兵庫県内3カ所の資材置場をコントロールする総本陣だ。

西日本タイヤ
西日本タイヤ

 OTRの取扱高が、乗用車用やトラック・バス用に比べ抜きん出ているのが同社の特徴。OTR専門のタイヤ販売店と形容しても過言には当たらないだろう。その同社最大のトピックは昨年11月、中国のトップメーカーであるZhongce Rubber Group(ZCラバー、中国浙江省杭州市)との間で、OTRと農機用タイヤ(AG)の国内販売代理店(ディストリビューター)として契約を結んだこと。

 ZCラバーは杭州中策ゴムという社名でも知られる中国最大のタイヤメーカー。2019年のタイヤ売上高は35億8500万ドルで、米専門誌による世界ランキングは第10位。昨今の需要動向から推し量ると、近い将来トップ10圏内でその順位をさらに上げて来るのではないかと注目されている。

 日本の国内市場では、日本法人がGOODRIDE(グッドライド)ブランドの乗用車用やSUV用、TB用などのタイヤを販売。また別ブランドであるWESTLAKE(ウェストレイク)や朝陽(CHAO YANG)なども流通している。しかしOTRとAGに関して、ZCラバーが日本企業と代理店契約を結ぶのはこれが初めてだ。

 グローバルレベルでOTRの需要が伸長する影響で、国内市場は中・小型OTRの供給でタイト感が続いている。西日本タイヤでは中国やインドの製品輸入を増やしそれへの対応を図ってきた。同時に、NSTタイヤというオリジナルのプライベートブランドを立ち上げ、中国メーカーで委託生産を行ってきている。

 それでも供給不足が解消されたわけではない。同社ではラジアル、バイアスともに品質が安定し品揃えのあるメーカーを探し続けた。そんな中で今回のZCラバーとの代理店契約が浮上。そこで正式契約を結ぶ前に走行データをとった。単に摩耗状況を見るだけでなく、OTRに不可欠な焼き付け修理などリペアが可能か、さらに修復後に剥離しないかどうか。2年もの間、1000本ほどタイヤを輸入し独自の評価テストを繰り返し実施。それを経て契約に至った。同社で力を入れているウレタン製ノーパンク加工についても問題ないと、神田社長は言う。

 なお、プライベートブランドのNSTタイヤは当面、現状を維持するが、状況を見ながら生産の委託先をZCラバーに移管し生産していく計画だとしている。

焼き付け修理の技能を世界へ伝える

神田社長
神田社長

 創業からまもなく70年になろうという社歴を誇る西日本タイヤ。神田社長は「日本のOTR業界はもったいないタイヤの使い方をしている」、そう指摘するのもOTR販売に注力し続けてきたからこそ。まだまだ使うことができるタイヤ、修復して使うことができるタイヤ、そういうOTRが市場に多数存在するのに、売る側も使う側も新品タイヤに交換することばかりに目が向いてしまっているという。

 リース車両は特にそれが顕著だそうだ。たとえば3カ月程度で返却された車両のタイヤ表面に少し傷がついた場合でも、部修して綺麗にしようとする発想はなく、新品タイヤへの交換を提案するケースが多々あるという。中古として使用可能なタイヤ、リトレッドタイヤの台として使用することが可能なタイヤが輸出もされず、ただ廃棄処分されることに心を痛めている。

 「タイヤの状態は1本1本、それぞれで異なるので、リトレッドのようにオートメーション化はできないし、タイヤごとに適した修理の仕方をしなければならない。焼き付け修理は全然儲かる仕事ではないが、タイヤを大事にするという考え方とその技能を持つ専門業者は絶対に必要だ」と力を込める。

 このような思想は外国人の技能実習生制度への取り組みでも見られる。自動車や用品の整備・販売業で同制度を活用するケースが見られるが、神田社長もその導入に向けていち早く取り組んできた。コロナ禍で計画より遅れているものの、現在の見込みではこの春に資源国から2名、迎え入れる予定。社に隣接する賃貸マンションを既に確保するなど準備は万全だ。

 神田社長は「覚えて欲しいのはタイヤ交換作業と、焼き付け修理、ウレタン注入。これらに関する機械の保全管理から運用まで、すべてを教えたい。併せて小型移動式クレーンや玉掛け作業、アーク溶接など付帯する各種の資格を、日本人の社員と同様に取得させたい」とする。

 「彼らが祖国に帰ったときに『こういう資格を持っている』と堂々と言えるようにしてあげたい。西日本タイヤで覚え習得した技術・技能を活かし、祖国のタイヤビジネスの礎にして欲しい」、このように続ける。

 資源国ではOTRは基幹産業と深い関わりを持つ。従ってタイヤビジネスは成長産業の一つだと言える。同社の活躍の舞台は国内にとどまらず世界へと拡がっている。


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