一人ひとりを尊重する“多様性” 住友ゴムが取り組む魅力ある風土づくり

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カテゴリー: 事業戦略, 特集

 「女性だから体力がなく、この業務は無理かもしれない」、あるいは「特定の国や地域の出身者は自社に合わないのではないか」、さらに「女性ならではの対応」「これは男の仕事」――生活の様々なシーンで多くの人が一度は聞いたことがあるかもしれない。私たちは年齢や性別、国籍、障害の有無など様々な属性を持ちながら日々の仕事に取り組んでいるが、それが就職や昇進などで不利な扱いを受ける場面もある。そうした状況は果たして健全な社会と言えるのだろうか――。一方で、近年は多様な人材が生き生きと働くことができる環境整備に力を注ぐ企業も少なくない。差別や区別を排除するだけでなくダイバーシティ(多様性)を推進することによって、競争力の強化や生産性の向上といった成果につなげ、また人手不足の解消に貢献できることもある。タイヤ関連企業でも様々な取り組みが行われている中、住友ゴム工業は“働き方改革”と“ダイバーシティ&インクルージョン”を積極化している。このプロジェクトを推進する人事総務部課長の中西恒彦氏と人事総務部課長代理の梅村理子氏にその背景と目指していく姿を聞いた。

一人ひとりを尊重する“多様性”

 住友ゴムは、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献するため、基盤政策の一つとして働き方改革やダイバーシティ&インクルージョンを推進している。2017年から本格的に働き方改革に着手し、労働時間の削減や業務の効率化などを中心に取り組みを進めてきた。

 2019年には改めて同社は「働き方改革で実現したいこと」を整理し、付加価値の高い商品やサービスの提供に向けたイノベーションの創出につながる取り組みに焦点をあてた。山本悟社長はトップコミットメントとして「多様な人、価値観や働き方を認め尊重し、一人一人が輝けること」「デジタル化(IoT、AI・RPAなど)を推進し、新しいことに挑戦すること」――この2つのメッセージを社内に向けて発信した。

 このコミットメントでは、「多様なメンバーがいる組織からは、新しい発想や斬新なアイデアが多く生まれる。様々な価値観に触れることで自分たちの常識を見直すことができ、より良いものや新しいものを生み出すことができる」という、同社が目指すべき方向性を示している。

 均質な人材で構成されている集団は、足並みを揃えやすいという利点があるものの、考え方は似たものになりがちだ。一方で多様なメンバーがいることで、思いもよらないアイデアが生まれることがある。さらに、年齢や性別などの属性による区別を廃止することで有能な人材を逃す可能性を小さくすることにもつながる。

アンコンシャスバイアス研修
アンコンシャスバイアス研修の様子

 同社ではこの理念に従い、2019年2月に人事総務部門内でプロジェクトを立ち上げ、ダイバーシティ&インクルージョンと働き方改革を推進する体制を整えた。それと同時に「グループ社員一人ひとりが“働きがい”と“つながり”を感じられる魅力ある風土づくり」にスポットを当て、改革に動き出した。

 目指すべき環境について、梅村氏は「お互いをリスペクトし、何かハンデを感じるようなことがあればサポートし、相互扶助の風土をもって理解し合っていく――この状態が当たり前になること」と力を込める。そうした環境作りに向けて、主に社内に向けた情報発信や社員間のコミュニケーションの強化に取り組んできた。

 企業として目指す理念、働きやすさを向上させる制度を利用するには、まず従業員がそれ自体を把握しなくてはならない。そこで、昨年12月にダイバーシティ&インクルージョンや働き方改革における取り組みを周知するウェブサイトを社内イントラに開設。理念を共有するためにトップコミットメントを公開して情報発信を強化したほか、新しくチャットボットを設置した。

チャットボットキャラクター「チャボ」
チャットボットのキャラクター「チャボ」

 このシステムは社員が抱える疑問に対する回答や制度の紹介などを自動で行うもの。現在も継続して1カ月に400~500件ほどの問い合わせを受けており、今後は回答できる範囲を広げ、利便性を高めていく。工場で働く従業員などからは「24時間対応しているので、いつでも回答が分かる」と期待の声が寄せられている。

 またコミュニケーションを強化するため、社員同士がお互いに理解を深められるような座談会、無意識の偏見を取り除くアンコンシャスバイアス研修にも取り組んでいる。

 アンコンシャスバイアス研修はユニークな内容となっている。例えば「若手にこういう仕事はできない」「女性はリーダーになりたがらない」といったダイバーシティの阻害要因になり得る“無意識の偏見”をなくすためにどうすれば良いのか――研修は自分の中にある思い込みを顕在化させ、相手に自分の価値観を押しつけていないか、敬意を持って接することの重要性を再発見させる。

 研修を終えて、すぐに目に見える効果が表れるものではないのかもしれない。中西氏も「3時間くらいの受講で急にガラッと変わることを期待するものではない」としつつ、「気づきや新しい見方を感じてもらい、少しずつ考え方、ものの見方が変化してくる」と先を見据える。2020年は役員・管理職約700名が受講する予定で、徐々に風土を改革していく考えだ。

 無意識の偏見は、自らの行動にも意識せず表れるという。それにより偏見を持たれる側は十分に能力を発揮できないケースもあるようだ。同社が管理職などから研修を実施しているのは、職場の風土に与える影響が大きいことも理由だ。無意識の抑圧が取り除かれることで、部下は自分の力を存分に発揮し、生き生きと働くことができる環境が作られ、その結果として生産性の向上や個々の働きがいへとつながると期待している。

 同社では、結婚や出産でキャリアが中断しがちな女性従業員へのサポートやキャリア意識の形成にも積極的に取り組んでいる。復職のサポートをするジョブリターン制度や海外配偶者帯同休職制度などを整備し、ライフスタイルやキャリアに合わせた選択肢を広げている。中西氏は「仕事を離れざるを得ないのは女性のほうが多い。育児期間や職場へ復帰する際の不安を取り除くようなアクションが必要」とその重要性を指摘している。

 2020年はプロジェクトの活動をさらに活発化するため組織を再編した。これまでメンバーは本社が中心だったが、工場人事部門の社員なども加え、新しい体制でダイバーシティ&インクルージョンと働き方改革の推進に取り組んでいる。現在のプロジェクトメンバーは若手から課長級まで、多様な社員で構成されており、外国籍の社員もいる。様々な立場から検討することができれば、“痒いところに手が届く”ような、これまで以上にニーズに合った制度や施策が生まれることが期待できる。

住友ゴムの女性座談会
女性座談会の様子

 このような取り組みを客観的に評価できる外部指標は数多くある。そうした指標から自社に足りない部分をピックアップして活動に盛り込むというのが一連の流れだが、「それが本当に自社で求められていることか」という課題もあるそうだ。

 梅村氏は「外部指標を高めていくことは当然必要なこと」とした上で、「多様な従業員といかに結び付けていくのかが重要で、今後はその部分を定量的に測る仕組みを作りたい」と話す。既に属性を絞ったアンケート調査を実施しており、来年以降にその成果が確認できるよう下地作りを進めている。

 人材の採用面でも変化は始まっている。その一例が『どんな属性であっても基準を満たしていれば採用する』というアプローチだ。

 同社の場合、特定の年齢層や性別などを意識的に増やすという考え方はないという。一方で障がい者に関しては、これまでも各部署や特例子会社での雇用を推進してきているものの、担う業務を今までよりも広げ、より責任ある業務に就くケースを増やしていく方針だ。

 企業組織である以上、当然ながら全員が守るべきルールはある。その上で一人ひとりの多様性を認め、互いに尊重し合って働くことができる環境づくり。住友ゴムの取り組みは輝きを持った職場、さらには誰もが安心して生活できる社会に向けた重要な一歩となっていくだろう。


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