京都機械工具が大型車用「トルクル」を開発

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カテゴリー: レポート, 整備機器

 大型車の冬用タイヤへの交換が集中する時期に、車輪の脱落事故が急増すると指摘される。国土交通省が先に明らかにした調査報告によると、2020年度の発生件数は131件で、前年度に比べ19件増加。統計史上最多記録を更新した。事故を防ぐにはどうすべきか。日本自動車工業会では「お・ち・な・い」をキーワードに掲げ安全啓発を強めているさなかだ。本紙ではトルクレンチやタイヤデプスゲージなど自動車タイヤ整備用ツールの大手メーカー、京都機械工具(KTC)に事故を防止するには何がポイントとなるのか、考えを聞いた。

ヒューマンエラーを防止し記録に残す

大型車用トルクル
大型車用トルクル

 走行中に車輌の推進力がなくなり、惰力で道路左側に停車し確認したところ左側2軸目のタイヤが2本とも無かった。タイヤ交換の際の締め付けトルクが弱く、ホイールナットが走行中に緩み脱落したものとみられる。(12月10日・千葉県)――これは20年度中に起きた大型車の車輪脱落事故報告からの抜粋だ。

 車輪脱落事故131件は11~2月に多く発生しており、特に12月は40件と突出している。このような状況を踏まえ、国交省では車輪脱落事故防止対策の一環として10月1日から2月末日までを「大型車の車輪脱落事故防止キャンペーン」期間と設定。タイヤ交換時の“確実な作業”の徹底を呼びかけている。

 このタイヤ交換時の“確実な作業”が何を意味するのか。それはホイールナットを規定のトルク量で締め付けること。キーワード「お・ち・な・い」のうちの「な」は「ナット締め、トルクレンチを必ず使用!」とし、「適正なトルクレンチを用いて締め付ける」「交換後50~100km>走行後を目安に増し締めをする」と明文化している。

 「お・ち・な・い」に則り“確実な作業”を実施していれば、おそらく大半の事故は防ぐことができたに違いない。それにも関わらず20年度には131件もの事故が発生した。ではこれらのタイヤ脱着作業は誰が行ったものなのか。調査報告によると69件が大型車ユーザー、つまり事故の半数以上が自家整備だった。脱落事故の統計を取り始めて以降、この傾向は変わらない。

アプリイメージ
アプリイメージ

 工具や器具のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推し進めるKTCでは近年、センシングツールとソフトウェア、デバイス、そしてPCを連携させた「TRASAS」(トレサス)シリーズを展開。ツールをデジタル化することで数値を見える化し、得られたデータをPCで一元管理するシステムを構築している。

 太田省三氏(T&M推進本部TRASASスーパーバイザー)は「冬タイヤの交換は短期間に作業依頼が集中するのが実情。作業をこなすことに追われてしまうと、不注意や勘違いが生じやすくなる。それが正しいトルク値なのかどうか、あるいは締め忘れはないか、そういう確認が疎かになりがち。事故の要因を辿るとこのようなヒューマンエラーに行き着くことが多い」と指摘。

 「過締めやトルク不足などの作業ミス、作業記録の記入ミス、締め忘れなどはダブルチェックを行っても起こり得る。そのようなリスクを回避し、高品質の作業を誰もが効率的に行うにはトルク管理をデジタル化し、作業履歴を残すことが非常に重要だ」、そう続ける。

 そこでKTCが提案するのが「大型車用TORQULE(トルクル)」だ。「トルクル」とは、機械式トルクレンチに取り付けるデジタル変換ソケットで、言わばアダプターのようなもの。それをただ装着するだけで手持ちの機械式トルクレンチがデジタルトルクレンチへと早変わりする。

 KTCではこの「トルクル」を整備記録アプリ「e―整備」と組み合わせた。「トルクル」で得たデジタル情報をブルートゥース接続で専用アプリとペアリングしスマホやタブレット端末を通じて作業の進捗を見える化。同時にオンラインで繋ぐことで点検記録の自動入力を可能としたシステムだ。

 山口佳之氏(T&M推進本部TRASAS開発部システム開発グループ主事)は「トルクル」について次のように説明する。

トルクレンチに装着した状態
トルクレンチに装着した状態

 「目標のトルク値に対し作業が正常であれば端末画面上でグリーンのゾーンに表示され記録が保存される。だがオーバートルクの場合はそれがレッドゾーンに、目標に達していない場合はイエローゾーンに表示され、記録されない。再度作業し適正値でなければ記録されずアラートで知らせるので、作業ミスを防ぎ締め忘れのポカヨケとなる。締めた記録が残るのは作業者の安心にも繋がる」。

 「トルクル」はこれまで、差込角6.3sq(2~10N―m)、9.5sq(8~80N―m)、12.7sq(40~200N―m)の3種で製品展開をしてきた。しかし大型車の車輪脱落事故が年々増え続けていることを受けて、「大型車に対応可能な『大型車用トルクル』の開発が喫緊の課題となっていた」(山口主事)という。

 KTCはこのほど、そのプロトモデルを完成させた。最大トルク計測量が1000N―mと2000N―m、ともに大型車用ホイール等に対応する規格だ。来春、本格販売を開始する予定という。

 独自のアプリをタブレット端末やノートPCにダウンロードすることでブルートゥース接続による通信機能を可能にした。従って、「大型車用トルクル」も従来の「トルクル」と同様、現在作業中の締め付けトルク量が適正範囲なのかどうかをモニター画面を見ながら判断でき、作業終了時にその数値データが自動で入力される。

見える化で確実なトルク管理を

(左から)新晃自動車工業の辻氏、伊藤氏、KTCの山口氏、太田氏
(左から)新晃自動車工業の辻氏、伊藤氏、KTCの山口氏、太田氏

 この「大型車用トルクル」を早速、自動車整備の現場で試用してもらった。舞台は関西エリアで大型車整備や中古トラック販売などを事業展開する、新晃自動車工業(京都府久世郡久御山町、辻尚宏社長)京都南営業所だ。月間の扱い車両数が700~800台という、エリアトップの規模を誇る。

 伊藤真吾氏(整備・技術部 工場長)がノートPCの画面を確認しつつ、「大型車用トルクル」を装着したトルクレンチで締め付け作業を行う。レンチがカッチンと音を立てるまで、ハンドルのどの部分を握りどの程度の力を加えれば良いかは長年の経験で身体に染みついているようだ。

 伊藤氏は実際に使用しての感想を「締めたことが確実に数値に表れ、締めたという確認が取れるのは作業者にとって強い味方になる」と述べた。市場での本格展開にも期待感を示す。

 辻社長も「日頃から整備記録は自社でデータ管理を行い、お客様にそれをお見せしている。『大型車用トルクル』でトルク締め付け作業が数値で表れ記録に残るというのは非常に有意義だ」と話す。

 ナット締め付けの“確実な作業”には、トルク量を見える化し記録に残すことが不可欠。「大型車用トルクル」は脱輪事故問題を解消する有効な手立てとなりそうだ。


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