住友ゴム工業 山本悟社長  「DUNLOPの価値向上を図る」

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カテゴリー: インタビュー, 特集
山本悟社長
山本悟社長

 企業としての存在意義を「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」と掲げる住友ゴム工業。長期経営戦略R.I.S.E.2035を策定し、ありたい姿「ゴムから生み出す〝新たな体験価値〟をすべての人に提供し続ける」の実現に向け、歩みを進める。山本悟社長は「新中期経営計画で示す構造改革と成長事業の基盤づくりの目処づけができた。DUNLOP(ダンロップ)ブランドを軸に、成長事業のビジネス拡大をめざす」と、力強く語る。

 

 

 ターニングポイントの年を迎えて

 

 ——新中期計画(2023−2027年)でこの25年度を「ターニングポイントの年」と位置付け事業基盤の強化を進めてきた。発表からこの間、タイヤ事業本部のスタートをはじめ組織体制の再構築とともに、北米工場の閉鎖、欧・米・オセアニア地域のDUNLOP(ダンロップ)ブランドの商標権取得という大きな決断があった。

 

 北米工場はアライアンス解消後、復活をめざし、生産の体質改善と業務効率の向上に取り組んできました。日本からスタッフを派遣し、現地スタッフと一丸となって目標の達成に向け努力を重ねてきました。着実にその成果は現れていましたが、北米市場における取組みおよび事業の立て直しに関する施策について議論を重ね、慎重に検討した結果、生産活動の中止と解散を決定しました。

 工場を閉鎖することはわたしにとって初めての経験で苦渋の決断でした。地域や社員への影響が大きいので、労働組合など現地と話し合いを進め常に情報を共有することで、大きな混乱もなく完全閉鎖に向け進めることができています。

 企業の持続的成長に向けての重要な転機となりましたが、この判断がグローバルでの事業効率化や収益性の向上、グループの発展につながっていくと確信しています。

 

 ——北米工場の閉鎖を発表後、米国が関税政策を打ち出し、それが日本の自動車産業に大きな影響を及ぼしている。

 

 北米工場を閉鎖したことで地産地消はなくなりました。ただ、主力工場であるタイ工場は、当社グループのなかで最も規模が大きく、最新鋭の設備で稼働しています。生産効率が高く、高性能な大口径タイヤもここで生産しています。このタイ工場の生産コストは閉鎖した北米工場のコストより大幅に低いのです。

 関税は米国市場で展開するときにかかるのではなく、タイの出荷価格にかかります。ですので、関税政策が適用されても十分に押し返す力があります。関税影響分は値上げと自助努力により十分吸収できます。

 

 始動した「プロジェクト アーク」

 

 ——その自助努力では、Project ARK(プロジェクト アーク)を始動させた。成果へ期待がかかる。

 

 20年から全社活動、Be the Change(ビー・ザ・チェンジ=BTC)プロジェクトを開始し、グローバルでさまざまな施策に取り組んだ結果、大きな利益創出に繋がりました。

 この経験を活かし、総原価低減をめざす新たな活動としてProject ARKを立ち上げました。わたしがプロジェクトオーナーとなり、部門間の垣根を超えたダイナミックな施策を進めていきます。価格転嫁とこれらの施策の取り組みで、関税の影響を十分にはね返すことができると考えています。

 

 ——DUNLOPブランドの商標権取得を果たした。

 

 欧・米・オセアニア地域でのDUNLOPブランドの商標権取得は会社としても、わたし個人としても念願の取り組みでした。

 それまで同地域ではFALKEN(ファルケン)ブランドでビジネスを行い、短期間のうちにティア2のトップクラスのポジションを獲得することができました。欧・米・オセアニアそれぞれの市場ニーズにミートした商品開発と販売に取り組む——その成功事例がFALKENのWILD PEAK(ワイルドピーク)です。

 FALKENでつくり上げたこの基盤が、同地域でこれからDUNLOPブランドを展開するときに大きな力となってきます。グローバルでプレミアム商品を展開し市場を攻略していきますが、ほぼ全世界でDUNLOPを使えることでその態勢が整いました。

 

 個人的な経験ですが、わたしが入社当時、欧州でのDUNLOPへの信頼度、ブランド認知度は非常に高いものでした。欧州の新車メーカーとのパイプは非常に太く、わたしたちはフラッグシップタイヤの開発を進め、DUNLOPの販売に力を注いでいました。そういう夢をもう一度果たすための決断です。

 今回の商標権取得を機にDUNLOPを基盤ブランドと位置付け、まずは欧・米のプレミアムカーへの納入を拡大していきます。

 27年には欧米市場に、アクティブトレッド技術を搭載したDUNLOPブランドのオールシーズンタイヤを投入し、積極展開を図ります。開発は着々と進んでおり、しかもアクティブトレッドは進化を続けていますので、今から楽しみにしています。

 モータースポーツ活動にもこれから打って出ます。かつては、ル・マン24時間レースの有力チームのほとんどがDUNLOP装着でした。タイヤ事業だけでなくテニスやゴルフというスポーツ事業でもDUNLOPブランドの価値を上げ、相乗効果を高めていきたい。タイヤの「安全」、スポーツの「カッコ良さ」「若々しさ」、それを連携することでDUNLOPブランドのイメージがさらに上がることを期待しています。

 

 

山本悟社長
山本悟社長

 

「ゴムの技術力とブランド力武器に」

 

 長期経営戦略R.I.S.E.で描く姿

 

 ——長期経営戦略R.I.S.E.2035では、2035年にめざす姿の成長ドライバーとして「ゴム起点のイノベーション創出」「ブランド経営強化」「変化に強い経営基盤構築」の3点を掲げている。そこにかける想いを。

 

 当社の最大の強みは「ゴム・解析技術力」です。過去から兵庫県の「SPring-8(スプリング・エイト)」を活用し、ナノの世界を可視化することで新たなゴムを開発してきました。そこで培った技術を今は「ナノテラス」でも活かしており、新たな発見を生み出し続けています。

 「ゴム・解析技術力」とともに、「ブランド力」も大きな強みです。タイヤ、スポーツ、産業品の領域でFALKEN、SRIXON(スリクソン)やXXIO(ゼクシオ)、MIRAIE(ミライエ)といったブランドで確固としたポジションを築いてきました。そこに基幹ブランドのDUNLOPを使えるようになった。この意味は非常に大きいと思います。

 「ゴム・解析技術力」と「ブランド力」を武器に、アクティブトレッドやセンシングコアに代表される独自の技術によって世界に貢献できる価値をお届けしたいと考えています。そのときに不可欠なものがイノベーションです。

 

 企業理念Our Philosophyで掲げる「最高の安心とヨロコビ」をお客様に提供することがわたしたちの存在意義となります。イノベーションによって新しい商品を生み出すとともに、社会課題の解決にも貢献していきます。常に新しい価値を生み出し続けることで競争優位性を確保し、他社との差別化が図れると考えています。

 また、技術開発だけでなく、サービスの分野でもイノベーションに取り組んできています。それにより、お客様に喜んでいただけるモノやコトを生み出していきたい。それがR.I.S.E. 2035で掲げた「ゴムから生み出す“新たな体験価値”をすべての人に提供し続ける」のめざす姿です。

 

 ——26年に北米にイノベーションラボ、28年には日本にイノベーションセンターの設立を表明している。

 

 当社は「ゴム・解析技術力」を起点として、他社にはない独自の技術ノウハウを保有しています。ただこれまでを振り返ると、そのビジネス化にやや時間がかかっていたという反省があります。ビジネス化を迅速に行うことに長けた人材や組織があれば、新しい技術ができたときにすばやく、世界中のお客様の困りごとを解決できるようになります。

 そう考えたときに、世界の英知が集まりマーケティングで先行する北米に拠点をつくることを決めました。ここではマーケティングだけでなく、マネジメントもできる人材を育てる場にするという構想を持っています。

 一方、イノベーションセンターの詳細については現時点ではお話しできませんが、研究・材料・解析機能の高度化に加え、大学や他社、スタートアップとの共創を促進し、オープンイノベーションを実現するための施設です。設立は28年を目途に計画しています。これにより、ゴム起点の新たな体験価値の創出を加速させることをめざします。

 また、アクティブトレッド技術の進化を加速させる取り組みとしては東北大学内に「次世代シンクロサイエンス共創研究所」を開設しました。仙台にはナノテラスを活用する「住友ゴム イノベーションベース・仙台」を立ち上げています。またこの8月には、北海道大学のデータ駆動型融合研究創発拠点「D-RED」内に、「住友ゴム イノベーションベース・札幌」を立ち上げました。今後、このような産学連携の取り組みをさらに加速させていきます。

 

 プレミアムタイヤ増産に向け設備を置換

 

 ——白河工場とタイ工場で「In−House New Factory」の導入を予定している。その考えかたと、他の工場への展開について。

 

 「In−House New Factory」は今ある生産を止めずにプレミアムタイヤを増産するための設備に置換し、生産プロセスの自動化や効率化、柔軟性向上を同時に進めていくというものです。

 欧米市場向けにDUNLOPのプレミアムタイヤを増産するというのが大きなテーマです。まず、日本の白河工場とタイ工場でプレミアムタイヤを生産するための設備への置換を進めています。

 「In−House New Factory」は他の工場にも展開していきます。例えば国内では、既に高インチ化への変革を名古屋工場で進めており、インドネシアでは北米向けSUVの増産、南アフリカでもSUVの増産を進めます。

 それぞれの工場で規模の違いはありますが、プレミアムタイヤの増産とグローバルアロケーションの再編に応じて最適な変革を各工場で進めていきます。

 

 ティア1市場でプレミアムブランドになる

 

 ——DUNLOPブランド取得の効果の最大化に向けた施策について、改めてうかがいたい。

 

 DUNLOPを軸としてグローバルでブランド戦略を進めます。これまでは地域や事業で違いが見られました。今後はグローバルで横断的に進めて行きます。

 DUNLOPのありたい姿はティア1市場でプレミアムブランドとなること。それに向けて進めていることが3点あります。

 一つは経営基盤の構築。ブランドアイデンティティやビジュアルアイデンティティを統一し、DUNLOPのブランドイメージが同じ価値観の下、グローバルで蓄積される体制を構築します。あわせてブランドの経営指標を導入します。KPIを設定し、ブランドの魅力を引き上げるための施策を確実に実行していきます。

 二つ目はブランド拠点の強化です。日本にブランド本部、欧州と米国にブランド拠点を置き、責任者を明確にします。グローバルで統一感を持ちつつ、エリアの指向性やトレンド、地域特性を考慮しスピーディでタイムリーにブランディングを行う態勢とします。

 三つ目は積極的なブランド投資を行うこと。タイヤだけでなくスポーツ、産業品の各事業でDUNLOPブランドへの積極投資を行い、シナジーで効果の最大化をめざします。

 そこにはモータースポーツ活動が大きく関与してきます。モータースポーツは勝つことでその意味が深まります。モータースポーツだけではありません。ゴルフやテニスのスポーツ競技でフロントランナーとなることは、DUNLOPブランドの価値の向上につながります。

 グローバルにDUNLOPブランドを軸としたブランド戦略を立て、地域・事業横断でDUNLOPブランド価値の向上を図り、「選んでいただき、価値に見合うプレミアム価格で買っていただく、買い続けていただく」ための戦略、施策を実行していくつもりです。

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