「オンでもオフでも、快適な走りを」

〈チャーミングカー〉なるジャンルはない。記事の見出しはなるべく短く、印象に残るようにというのが基本原則。もともとは「チャーミングなクルマ」とするつもりだったが、あえて造語とした。要は〈ひとを惹きつける〉〈魅力的な〉クルマという意味合いだ。チャームポイントとはつまり好きずき。個人の主観に左右されるので、あるいは共感を呼ばないところがあるかもしれない。ただチャームポイントは個性をきわ立たせる。凡百の一つに成り下がらない、矜持をみせるクルマを選んだ。
間近で見て「なんてチャーミングなのだろう」。それがこのクルマのファーストインパクトだ。トヨタの16代目となる新生クラウン、その第1弾のクラウンクロスオーバー(以下、CO)から派生したRSランドスケープ。ベースがクラウン初のクロスオーバーSUVであるうえに、さらにアウトドアのテイストを取り入れた特別仕様車。第一印象は強くて当然だ。
本欄で既に、クラウンCO G Advancedとクラウンセダンに乗っている。フラッグシップカーとしての意義やこれまでに至る系譜、4車種での販売構成の意味合いについて、ここでは繰り返さない。

クラウンCO RSランドスケープのスペックは全長4930ミリ×全幅1880(クラウンCO RS1840)ミリ×全高1565(同1540)ミリ、ホイールベース2850ミリ、車両重量1910(同1790)キロ。車幅が広く、車高が高く、重量も重くなっている。そのためベース車のクラウンCOよりも〈ガタイのよさ〉〈いかつい〉感が強め。しかし、クラウンらしいスタイリッシュさは決して失われていない。
排気量2.4リットル、ターボ付きT24A−FTSエンジンを搭載したフルタイム4WDのHV。最高出力272ps(200kW)/6000rpm、最大トルク46.9kg・m(460N・m)/2000−3000rpm。WLTCモード燃費は15.7km/ℓ。

クラウンCO RSランドスケープのアウトドアテイストを象徴するのは、その足もと。新車装着タイヤは横浜ゴムのSUV用ブランド、「GEOLANDAR(ジオランダー)」だった。「A/T G015」である。サイズは245/60R18 109H(EXTRA LOAD)。
クラウンCOといえば、瀬在さんが「おそらく過去にはあり得なかっただろう」と評した、225/45R21 95Wという21インチサイズのタイヤを乗用車クラスに履かせた。市場で強力なインパクトを与え、それがタイヤの大口径化への端緒となり、やがて大口径タイヤがコモディティ化していくことへとつながったとみてよい。
同じクラウンCOでも、RSランドスケープのそれは偏平率60シリーズの18インチ。タイヤのサイド部面積が分厚くなり、トレッド踏面が幅広くなった。ちなみにクラウンセダンの標準装着タイヤのサイズは235/55R19 101V(245/45ZR20 103Yサイズもあり)。タイヤのスピードレンジ設定もそれぞれで違う。

「ジオランダー A/T」は、オフロード性能とオンロード性能を高い次元で両立したオールテレーンタイヤ。すべての地形に対応し高い走破性を発揮するタイヤだ。太いストレートグルーブと力強いラググルーブが織りなす、アグレッシブなトレッドパターンを採用した。ゴムには機能の異なる3種類のポリマーをブレンドし、コンパウンドに求められる性能をトータルで向上。また独自の配合技術でシリカを均一に分散することにより、ウェット性能を高めた。
欧州で冬用タイヤとして認証されたあかしである「スリーピークマウンテン・スノーフレークマーク」を刻印。多様な路面環境や気温の変化にもきめ細かく対応する。
見た目にもアグレッシブな印象のショルダーデザインから、「都心を走るにはどうなのだろうか」と一抹の不安はあった。秋葉原から両国へ隅田川に沿って走り、東京スカイツリーを見ながら首都高に入ってみた。だが、それはまったくの杞憂。瀬在さんは「タイヤ自体のダンピングが良く、路面の凹凸からの振動を包み込んでくれます。高速で走ると前後のピッチングを多少感じますが、それもやがてストレスや疲労につながるというレベルではありません」と感触を語る。
「21インチの超偏平タイヤの場合、タイヤの内部、カーカスの〈仕事〉に依存するところが強い気がします。ですが、この60シリーズ・18インチはゴムコンパウンドやトレッドパターンの工夫がよく現れ、クルマのポテンシャルであったり本来の性能をうまく引き出しています」と付け加えた。
クラウンらしい、静かで上質な走り。街乗りを心地よく楽しんだその足でそのままアドベンチャーフィールドに向かい、アウトドアのアクティビティに参加する。自転車、ボード、テント……。王冠マークのトーイングヒッチを純正装着したのはダテではない。RSランドスケープだからこそ、その範囲は格段に広がった。
「どこへでもこのクルマで走って行ける」、そんな気にさせるフラッグシップカーなんて、たぶんなかった。
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。