スペシャルティカーの要求性能に応え

日産のスポーツクーペ、GT−R(24年モデル)プレミアム・エディションT−specに続いて取りあげるのはホンダアコード。ホンダはレジェンドをはじめ、シビックやインサイト、グレイス、クラリティと、セダンの人気車種を販売していたが、それもひとむかし前。現在はSUVへと大きく舵を切っている。だが24年3月、同社は新型アコードを発表した。
初代アコードは1976年に登場した。それから数えること、今回のモデルで11代目。ホンダはそのグランドコンセプトを〝Driven by My ACCORD〟とし、「相棒アコードとより高みへ」との意訳を添えた。初代から一貫して持ち続けてきた「人と時代に調和したクルマ」の思想を踏襲。最新の安全技術や先進装備を搭載し、ユーザーとともに高みを目指せるようなモデルにしたという。
パワートレーンは2.0リットル直噴アトキソンサイクルエンジン+発電用と走行用、それぞれ専用モーターを採用した2モーター搭載のハイブリッド。バッテリーからの電気によるモーターのみで走行する「EVモード」、エンジンの力で発電した電力による走行用モーターで駆動する「ハイブリッドモード」、高速クルージング時にエンジンと車輪を直結しエンジンの力で走る「エンジンモード」、3種のモードを備える。
ホンダの誇るスポーツe:HEVはこの三つのモードを自動で切り替えて、常にモーターとエンジンの〈いいとこ取り〉を実現する。FFの駆動方式もライトなスポーツフィールに適している。
瀬在さんは「EVの持つトルクフルな走り出し、中速から高速への加速感、こういうシーンで切れ目を感じることがなく、スムーズな走りを実現しています。軽快で安定した操縦性、ホンダらしい走りをこのクルマは受け継いでいます」との印象を語ってくれる。
コーナリング時には新開発の「モーションマネジメントシステム」が働くという。これは車両に搭載されたセンサーがカーブでの旋回を検知すると、モーターのトルクとブレーキを統合制御するもの。減速をかけることで前輪に荷重をのせることで横力が増加し応答性が向上。車両の挙動がコントロールされ旋回しやすくなるシステムだ。
アクセルとブレーキの両方を足で操作しながら絶妙なハンドルさばきで高速コーナリングし先行くクルマをオーバーテイクする−−−−瀬在さんのようなレースドライバーがサーキットでの闘いで修得したドライブテクニックが、先進システムで再現されたと言ってよいのではないか。この「モーションマネジメントシステム」は、国内向けホンダ車としてはこの新型アコードが初搭載となる。
燃費性能は燃料消費率WLTCモードで23・8km/ℓ。3回連続で本欄に掲載した輸入・国産の内燃機関車とは倍以上、違う。安全運転支援システム「Honda SENSING 360」をさらに進化させ、周辺検知能力を一層レベルアップさせた。環境性能と予防安全性能を向上し、〈より高み〉への具現化を図っている。

今回新型アコードに装着されたタイヤはミシュラン「e・PRIMACY(イー・プライマシー)」。転がり抵抗性能指数「AAA」を獲得した、ミシュラン史上最高の低燃費性能が特長のコンフォート系プレミアムタイヤだ。装着サイズは235/45R18 98W EXTRA LOAD。
前回の日産GT−Rのときに書ききれなかったこと。GT−Rの開発過程で、ある仕様の車両の走行実験中に0.1秒間、タイヤが路面に接地していなかったことがあったと、日産の開発陣が明かす。「わずか0.1秒だが、300km/hで走行していれば8.3メートルも浮いていることになる。ニュルブルクリンク北コースのコース幅に匹敵する数字だ。ひとつ間違えば制御を失いコースアウトという結果を意味する」と、ステートメント内で続けている。

タイヤには〈走る〉〈曲がる〉〈止まる〉〈荷重を支える〉という四つの基本性能が求められる。路面と接地し転動し続けるタイヤは、接地するそのわずかな時間と接地面積で、求められる性能を発揮しなければならない。
そこにドライ路面/ウェット路面でのグリップ性能や直進安定性、コーナリング性能が要求される。居住性(乗り心地)・静粛性(ロードノイズ/パターンノイズなどのノイズ)も問われる。転がり抵抗(燃費性能)/耐摩耗性/ロングライフなど経済性が求められる。それぞれが相反する性能を両立しなければならない。トレードオフ関係にある性能をいかに高い次元でバランスさせるかが、タイヤメーカーの腕の見せどころだ。
今回の新型アコードは、前回の日産GT−Rや次回予定のGRスープラRZのような走りの性能を追求するドライバーズカーとは異なり、スペシャルティカーに属する。シビアな使用環境で限界性能を極めることよりも、居住性や快適性に重きを置く。タイヤに求められる性能領域も当然同じ。

だが、ミシュランは「トータル・パフォーマンス」を謳う。それはあるひとつの性能に秀でるのではなく、すべての性能を追求し、どの性能も水準以上のパフォーマンスを備えること。新型アコードに装着されたエコタイヤでもその実現をめざしているのだ。
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。