
住友ゴム工業は、白河工場に水素製造装置「やまなしモデルP2Gシステム」(以下、P2Gシステム)を導入した。24時間稼働で水素を製造し、タイヤ製造の加硫工程の熱源に活用する。年間約1000トンのCO2排出量削減となる見込み。同社が掲げる2050年カーボンニュートラル達成へ向け、大きく一歩前進した。
脱炭素が企業の社会的責任として求められるなか、水素は次世代エネルギーとして注目されており、多くの企業・自治体が水素活用に取り組んでいる。住友ゴム工業では、タイヤ製造の主要拠点である白河工場にP2Gシステムを導入し、4月から製造を開始した。
24時間稼働で年間最大約100トンのグリーン水素製造が可能となる。これにより輸送を含むサプライチェーン全体で年間約1000トンのCO2排出量削減につながるという。

山本悟社長=写真中=は「今回の導入で安定的にグリーン水素を供給できるようになった。感慨深い」と語った。
水素エネルギーを活用したタイヤ製造に向けた実証実験は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として支援を受け、21年8月から24年3月にかけて行われた。
目的には技術の確立や製造時のCO2排出量ゼロとなるタイヤの開発のほかに、水素の「地産地消」をあげる。使用された水素は、工場が立地する福島県内の水素製造拠点から供給されたもの。水素ボイラーで高温・高圧の蒸気をタイヤ製造の加硫工程で活用し、23年1月には日本で初めて製造時(スコープ1、2)におけるカーボンニュートラルを達成したタイヤの量産を開始した。
24年5月には山梨県とグリーン水素による脱炭素化等に係る基本合意書を締結した。それにより今回導入されたP2Gシステムは、再生可能エネルギーを活用し水を電気分解することで環境負荷の少ないグリーン水素を製造する。

従来の配達水素、系統電力、場内太陽光発電、既存燃料とともに、今後、白河工場の五つのエネルギー源の一つとして活用される。
執行役員の箱嶋英一氏は、「水素の『つくる』と『つかう』を同一拠点で完結させることで水素の輸送による環境負荷が低減できる。今後は水素だけでなく、電化、eメタンといった多様なエネルギー源の可能性を追求していく」と意気込む。
住友ゴムは、白河工場を「脱炭素グランドマスター工場」と位置付け、将来的には国内外の他工場への展開も視野に入れている。
15日には、P2Gシステムを報道陣に披露。福島県知事の内堀雅雄氏、NEDOの飯村亜紀子氏ら多くの来賓が祝辞を述べた。「世界に誇るシステム」「世界においても最先端のカーボンニュートラルに近い工場」など、白河工場を中心とした取り組みが国際的にも高いレベルであると称賛する声があがった。
山本社長は、「カーボンニュートラルをめざし、一歩一歩技術を習得していく必要がある。これには時間がかかる。当社単独では限界がある」と、NEDO、山梨県、福島県などへの謝意を表した。
地元の福島大学との共同研究も開始され、取り組みの輪はさらに広がりを見せている。持続可能な社会の実現へ向けた次の展開も始まっているようだ。