国土交通省関東運輸局自動車技術安全部整備課 及川健太郎専門官  車輪脱落事故防止へ向けて  適切なタイヤ脱着作業の徹底を(抄)

シェア:
カテゴリー: インタビュー, 特集
及川健太郎専門官
及川健太郎専門官

 大型車の車輪脱落事故が増加している。2024年度には国土交通省から緊急対策の通達がなされ、事故防止対策は喫緊の課題だ。適切なタイヤ脱着作業が重要だが、いかに周知徹底をはかるか。事故防止の最前線はタイヤ交換作業現場やドライバーだけではない。行政側も必死に取り組む。及川健太郎専門官は「事故を限りなくゼロに」と、啓発活動への熱意を語る。

 

 増加一途の事故件数に危機感

 

 ―大型車の車輪脱落による事故件数は増加しており、死亡事故もあった。

 

車輪脱落事故防止1
車輪脱落事故防止1

 令和5年度は142件。そのなかには1件の死亡事故も含まれていました。こうした痛ましい事故が発生することのないよう努めていかなければなりません。

 令和6年9月に物流・自動車局が開催している「大型車の車輪脱落事故防止対策に係る調査・分析検討会」で「令和5年度大型車の車輪脱落事故発生状況と傾向分析について」という報告をまとめています。

 車輪脱落事故142件のうち32件はタイヤ専業店で、20件は自動車整備事業者でタイヤ交換を実施していたという調査結果がでており、その一部で作業不備が確認されているためインパクトが強いものでした。

 

 ―作業不備とは。

 

 タイヤ脱着作業時の不備として、劣化したナットの使用や点検・清掃・潤滑剤の塗布が適切に行われていない、規定トルクで締め付けされていない、増し締めを行っていない、事業者がトルクレンチを保有していなかったことなどが明らかになっています。

 エリア別の車輪脱落事故発生件数をみると、東北地方で最も多く発生しており、北海道・北信越・関東と続いており、月別の発生件数では10月から2月に多く発生しています。われわれが管轄する関東地域は3地域ほどの降雪エリアではありませんが、物流の中心地として車が全国へ移動しますし、突発的な降雪もあるので、冬用タイヤに交換する機会は高いと見ています。

 事故分析ではさまざまな推定要因があげられていますが、個人的にはタイヤ脱着作業後に増し締めがなされていない車両が多いこと、車輪脱落事故はタイヤ脱着作業後1カ月以内の事故が半数超を占めていることが気になりました。

 令和6年度の統計も、まもなくまとめられるのではないかと思います。それをもとにして新たにセミナーの資料を作成し、引き続き皆さまに周知していきたいと考えます。

 

 ―緊急対策も通達されました。

 

車輪脱落事故防止2
車輪脱落事故防止2

 この分析結果の発表後に国交省で緊急対策を通達していますが、国交省が実施すること、各関係団体が参加する「大型車の車輪脱落事故防止対策に係る連絡会」の構成団体でそれぞれ実施することが記載されています。車輪脱落事故ゼロをめざしていくうえで、各関係者それぞれが行うべきことをしっかり意識して取り組んでいただく必要があると考えています。

 通達のなかに「タイヤ脱着管理作業表」というチェックシートがあります。清掃・点検・油脂類塗布・取付・保守について確認・作業内容を記載しており、これらの項目をしっかりとチェックすることで適切な作業ができるようになっています。

 対策のキモは「適切な作業」です。作業項目ごとにチェックしていただくことでやり忘れを防ぐことができます。

 緊急対策のなかでは「10月から2月に事故が集中」している状況から、その期間のキャンペーン実施をうたっていますが、その時期だけではなく日ごろから継続的に実施いただくこともお願いしています。

 

 

 使用者への啓発も課題に

 

 ―セミナーで強調するポイントは。

 

 タイヤ脱着作業をされる方へは、「適切な作業」を実施していただくこと、運送事業者の整備管理者さまへは、「車両の保守管理」を徹底していただくこと、タイヤ販売店、自動車整備工場の皆さまには、本業である適切なタイヤ脱着作業はもちろんですが、タイヤのプロとして、「使用者へ啓発」していただくこともお願いしています。

 また、タイヤ脱着作業後50キロ~100キロ走行で行う増し締めの重要性も伝えています。

 

 ―点検整備の重要性について。

 

 点検整備は、使用過程における自動車の安全確保及び公害防止、その他の環境の保全を図るため、自動車の使用者に対して法令で義務付けられているものです。日常点検、運行前点検、法令で決められた間隔で行う必要がある定期点検を確実に実施していただく必要があります。点検整備の実施は、車輪脱落事故防止にもつながることをご承知おきいただければと思います。

 毎年9月、10月に「自動車点検整備推進運動」強化月間を実施しておりますが、「大型車の車輪脱落事故防止対策に係る連絡会」も中心となって実施する機関となっており、重点項目として「大型車の車輪脱落事故防止対策を中心に、大型車に関する適切な点検・整備の実施方法についての啓発」があげられておりますので、啓発のご協力をお願いします。

 緊急対策では、各関係団体の傘下会員などに向けて、具体的にやっていただくことを記載しています。タイヤ関係団体の実施事項では、インパクトレンチによるホイール・ナットの締め過ぎの注意喚起や規定トルクでの締め付けを徹底すること、使用者への車輪脱落事故防止のための「お・と・さ・な・い」のポイントの周知などが盛り込まれています。タイヤ関係団体以外にもそれぞれに具体的な実施事項となっています。

 (本紙では全文と写真、グラフを掲載)

【関連記事】