ザ・ニュー オール・エレクトリック「ミニ クーパー SE」
「伝説のゴーカートフィーリング、再現」
昭和世代の、とくに男子にはクルマを選ぶ際に重要な要素がいくつかあった。70年代後半に巻き起こった空前のスーパーカーブームを見聞きしたが、そのころに免許をとったばかりの初心者マーカーは身のほどというものを知っている。現実路線に素直だった。本欄にも登場した国産マッスルカーが当時、高い支持を得た一方で、個性的なルックスの輸入車に羨望のまなざしを注ぐ者も多かった。なかでも〈カタカナ職業〉や〈ギョーカイ人〉ともてはやされた、いわゆるサブカル系のひとたちにはビートルとミニ・クーパーが人気の双璧。後者はとくに〈女子ウケ〉が高かった。
ミニ・クーパーだが、歴史をひもとくと少しややこしく、従って呼称もいろいろと変遷してきている。もともとは「オースチン・セブン」と「モーリス・ミニ・マイナー」という名前の兄弟車で、イギリスが発祥。その後、「ミニ」という名称に統一された。
ジョン・クーパー氏のチューニングでこのクルマがレースシーンで活躍したことをきっかけに「ミニ・クーパー」という名が一気に広まり定着した。モンテカルロラリーで並みいる強豪を制し3連覇を果たした。それが本国以上に、日本で人気を集めるきっかけとなったのは間違いない(このあたりからのサクセスストーリーは、英国のロックバンド、QUEENの軌跡とオーバーラップするところがある)。
80年代に入って製造メーカーが変わり呼称も「ローバー・ミニ」へと。さらに95年、こんどはドイツのBMWに買収され「ニュー・ミニ」「BMWミニ」という呼び名となる。現在、ミニはBMWのブランドのひとつだが、伝統と歴史はいまにしっかりと息づく。
23年、ニュー・ミニの第4世代が登場した。2.0リットルターボと1.5リットルターボのガソリンエンジン車、それにバッテリー電動車(BEV)が設定された。ミニの量販BEVは、これが日本市場で初登場。ガソリン車、BEVともに、伝統の〈いかにもミニらしい〉外観デザインが受け継がれている。

BEVは3ドアのみで、三つのグレードが用意されている。今回はそのなかからミニ・クーパー SEをチョイス=写真1=。全長3860ミリ×全幅1755ミリ×全高1460ミリ。車両重量は1640キロ、一般的なガソリン普通自動車なみだ。
このニュー・ミニのガソリン車にも乗った瀬在さんによると、ボディーサイズが若干違うと指摘。BEVのホイールベースは2525ミリ。2495ミリのガソリン車よりも30ミリ長い。「バッテリーを配置する関係で、プラットフォームの設計はBEVとガソリン車、それぞれ独自で行った」と、瀬在さんはみる。
充電と航続距離は、交流電力消費率(電気自動車)WLTCモード133Wh/㎞、一充電走行距離WLTCモードで446㎞とする。ミニ専用充電カードとモード3充電ケーブルを搭載しており、公共施設での充電に必要な機器は標準完備。SEの場合、外出先で最大95kwのDC(直流)充電により30分で10−80%、自宅や職場で11kwのAC(交流)充電により5時間15分で100%となる。

ミニらしさは室内にもよく表われている。小さなボディサイズだが、居住空間は窮屈さを感じない。ぜい肉を削ぎ落としたダッシュボード。そこでひときわ目につくのが円形の有機ELディスプレイだ=写真2=。直径240ミリという丸く大きなパネルに、ドライブメーターや地図&ナビ、さらにさまざまなインテリジェンス機能と直結。スマートデバイスの役割を果たす。クルマのCASEは進化が著しい。ミニ・クーパーでは円形有機ELディスプレイという、ほかにはないユニークなスタイルで先進のコネクテッドを実現した。
見た目のかわいさばかりに目を奪われがちだが、ミニ・クーパーは〈走り〉が真骨頂。SEは最高出力160kW/218PS/7000rpm。最大トルク330N・m/1000−4500rpm。レースやラリーで鍛えられ実現したスポーツドライブフィールに、BEVだからこそのトルクフルな加速が加わった。
「ミニ・エクスペリエンス・モード」を標準搭載し、交通状況や走行シーンに合わせて三つのモードを選ぶことが可能だ。バッテリーを長時間持続させるエコの「グリーン」に、通常の「コア」、それにスポーツ走行の「ゴーカート」。前出のジョン・クーパー氏のチューンで具現化した伝説の「ゴーカートフィーリング」がそれにより再現される。
瀬在さんは「人馬一体ということばがありますが、まさにそのとおり、ミニ伝統の走りの性能が現れます」とする。
ディスプレイで「ゴーカートモード」をタッチすると、「ヒャッホー」と、ゲームの「マリオカート」のような雄たけびがあがる。オノマトペ(擬音)で表現するのは幼稚かもしれないが、「アクセルを踏むとギュンと加速し、ハンドルを切るとスッと曲がる」。挙動のすべてにムダがない。ドライバーの意思、そのままに操れる。それが楽しい。
ミニ・クーパー SEに新車装着されたタイヤはミシュラン「e・PRIMACY(イー・プライマシー)」=写真3、4=。前後輪ともに225/40R18 92V。BMWからの承認、「★」(スター)マークが刻印されている。それがタイヤのトータル性能の高さを物語る。
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。