足回りにFRスポーツセダンの矜持が

本欄でつづけていた、国産クーペ&セダンシリーズのトリを飾るモデルとして選んだのがレクサス IS300。1月に特別仕様車〝F Sport Mode Black Ⅳ〟が発売されてからまもない。レクサススポーツの系譜を伝えるセダンはこのISに加え、ES、LSの3車種。クーペもRC、RC F、LCの3車種。花盛りのSUVと比べると寂しい。HVの設定はあるものの、EVはない。EVシフトを踏まえると、今回のマイナーチェンジは「ISのガソリンエンジン車では最終形態になるかもしれない」、モータージャーナリストの瀬在仁志さんはそう指摘する。
レクサスISシリーズはFR(後輪駆動)スポーツセダンだ。5リットルエンジン搭載のIS500、2.5リットルエンジンを搭載したハイブリッドシステムのIS300h、それに2リットルターボエンジン搭載のIS300の3タイプ。スポーツ性能を高めたF Sportなど、エンジンタイプとグレードをそろえラインアップを展開する。

市場で競合するのはメルセデスベンツ、BMW、アウディといった欧州のハイパフォーマンスカー。F Sportは「アグレッシブなスポーツ性能を追求し、切れ味の鋭いハンドリングレスポンスを実現しながら、それでいて心地良い乗り味との両立を図っています」と、瀬在さんは解説する。
IS300 F Sportは直列4気筒インタークーラー付きターボエンジンを搭載した。「エンジンルームに左右バランス良く配置されており、高速走行時の安定性に寄与しています」と、瀬在さんの評価は高い。「欲をいえば、6000回転を超えてほしかった」、アクセルを踏み込みながらそう付け加えた。
カタログデータを確認すると、最高出力は180kW(245PS)/5200−5800rpm、最大トルクは350N・m/1650−4400rpm。スピードレーサーにはこれでも物足りないのかもしれない。

サイズは全長4710ミリ×全幅1840ミリ×全高1435ミリ。ホイールベース2800ミリ。車両重量1640キロ。WLTCモード走行燃料消費率は12.2km/ℓ。
特別仕様車、〝F Sport Mode Black Ⅳ〟は〈匠の手仕事が深化させたブラックデザイン〉がコンセプト。新車装着タイヤはブリヂストンのPOTENZA(ポテンザ) S001L。サイズはフロント235/40R19 92Y、リア265/35R19 94Yの前後異サイズを採用。専用ホイールとして、BBS製ブラック塗装の鍛造アルミホイールを組み合わせた。サイズはフロント19×8.5J、リア19×9.5J。
これら足回りについて、レクサスは〈クルマとの一体感を生む俊敏性を追求し、よりスポーティな走りを味わえる前後異サイズのタイヤを専用設定〉〈独自の鍛造技術と職人の手仕事から生まれた専用ホイール〉とする。F Sport専用のチューニングに一層磨きをかけたわけだ。
瀬在さんはさらに次のように言及する。
「特別装備された鍛造アルミホイールは従来の鋳造よりも剛性が高く、大幅な軽量化と高強度を実現しました。バネ下重量(サスペンションのスプリングよりも下側)を大幅に軽減したことで、車両重量が軽減し、サスペンションの動きが向上します。よりスポーツ性能が高まり、しかも乗り心地が良くなります。
この特別仕様車の場合、専用アルミホイールの採用で1本当たり1.8キロほど、4本で約7キロの軽量化を実現したと聞きます。バネ下重量の軽減はバネ上でのそれに対し10倍の効果を得られると言われます。換算すると約70キロ、おとなひとり分もの減量に貢献する勘定になります」
レースは馬でもボートでもクルマでも、軽いほうが速い。シンプルな原理。競争で勝つために、ジョッキーしかりレーサーは減量に努め、ボディから虚飾を削ぐのだ。
軽量化はタイヤでも最も重要なテーマのひとつ。ブリヂストンは商品設計基盤技術、ENLITEN(エンライトン)を確立している。省資源化しCO2排出量を低減することで環境性能を向上。同時にハンドリングなど運動性能を高次元で両立する、新たなプレミアムタイヤづくりの技術だ。
同社はENLITENにより〈究極のカスタマイズ〉の具現化をめざす。日本をはじめ世界のプレステージOEとプレミアムEVに向け、ENLITEN採用商品の新車装着アプローチの強化に取り組むさなか。
また、市販用タイヤでもENLITENの搭載を進める。日本国内初の市販用ENLITEN商品として24年、「REGNO GR−XⅢ(レグノ ジーアール クロススリー)」を上市した。市販用ENLITEN商品は24年で約20商品・搭載率約20%だが、26年には約45商品・約60%、30年には約100商品・ほぼ100%をめざす。
今回の特別仕様車に装着されたPOTENZA S001Lは、左右非対称パタンを採用。OUT側でハンドリングなど優れたドライ性能を発揮し、IN側で耐ハイドロプレーニングなどウェット性能を追求した。フロントとリアとで異なるサイズ設定により、FRスポーツカーの卓越した軽快感を維持しながら、ハイパワーを受けとめドライ&ウェットで強力なグリップを発揮する。
なお、ホイールとハブベアリングの締結に一体型ハブボルト構造を採用したのも特徴。従来のハブボルト&ホイールナットによる締結構造に対し、高剛性化と軽量化を実現。操舵感と乗り心地の向上に貢献する。ただし、タイヤ交換作業は難易度が上がるといわれる。
欧州のハイパフォーマンスカーでは多くの採用実績があるが、国産は少数派。それを積極的に導入するあたり、レクサススポーツの矜持をみる。瀬在さんは「足回りをはじめ細部にわたるまで磨きをかけ、FRスポーツカーの魅力を深化させつづける姿勢に頭が下がる思い」と感慨深げ。
POTENZAシリーズについても、今後ENLITENの採用でどのようにエッジを効かせその世界観を表現するのか、期待をあらわにした。
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。