すべてのシーンを安心安全に走るために

クルマ市場は現在、SUVが隆盛をきわめる。少し前はミニバン、ハイト系ワゴンだった。昨今、クーペやスペシャルティカー、クルマの王道であるセダンはすっかり陰に追いやられてしまった感がある。そのようななかで、しかし日産GT-Rに憧れを抱くクルマ好きは多い。
クルマのルックスは結局のところ、個人の好きずき。主観だ。本紙のSNSにクルマ好きのひとりが「最近、どれもサメかスズメバチみたいな顔で、みんな同じように見えてつまらない」と嘆く。だが、GT-Rの画像には「リアがヒップアップしていてアスリートですね」という反応を示したことを付け加えておきたい。
今回試乗したのは、GT-R24年モデルのプレミアム・エディションT-spec。4WDで、DOHC・V型6気筒の総排気量3.8リットルVR38DETT型エンジンを搭載。最高出力410kW(570PS)/6800rpm。最大トルク637N−m/3300−5800rpmを誇る。
それに比例するという表現が正しいのかどうかはわからないが、燃料消費率はWLTCモード7.8km/ℓ。市街地モードWLTC−Lの場合で5.2km/ℓ。“がぶ飲み”タイプだ。

タイヤは住友ゴムが日産と共同開発したダンロップのランフラットタイヤ「SP SPORT MAXX(エスピー スポーツマックス)GT 600 DSST」が標準装着。フロント255/40ZRF20 101Y、リア285/35ZRF20 104Yの前後異サイズだ。
住友ゴムと日産は、初期型スカイラインGT−Rや07年のR35型GT−R初代モデルなどの新車装着タイヤを共同で開発してきたという長い歴史を持つ。
同モデルへのランフラットタイヤの採用について、日産は次のように説明する。「想定されるあらゆるシチュエーションで慣性荷重を支え、超高速におけるコーナリングと、ブレーキングにおいても常に安定したグリップ力を発揮するタイヤが不可欠だ。われわれは構造上サイドウォールが厚く高い負荷に耐える特性を元来持っているランフラットタイヤを選択した」
さらに日産は「このタイヤはブロックに補強部を設けることで横剛性を高め、強大なグリップと俊敏なステアリングレスポンスを実現。同時に、インサートの材質や内部構造を吟味して、しなやかなたわみ特性を持たせることで路面追従性が高まり、優れた操縦安定性の実現や上質な乗り心地をも確保した。封入される窒素ガスはスポーツ走行時の内圧の変化を抑制するほか、経時抜けによる内圧低下も抑えてメンテナンス性にも貢献する」と続ける。

瀬在さんは「スポーツ走行をきわめる。速さを徹底的に追い求める。そのような場合、安心・安全に走ることが可能なランフラットタイヤがベストな選択だったのでしょう」と補足した。なお、商品名にある「DSST」はDunlop Self Supporting Technology(ダンロップ・セルフ・サポーティング・テクノロジー)の略称。空気圧ゼロの状態でも時速80km/hで距離80kmを走行することが可能なランフラットタイヤを意味する。
本シリーズでこのクルマ以外にも新車装着のランフラットタイヤに乗っている。さらに言えば、現在に至る前の、進化するさなかのランフラットタイヤにも試乗していた経験も持つ。それを通じて感じられるのは、現在のランフラットタイヤは乗り心地が格段に向上しているということ。
ハンドルを握る瀬在さんも次のように評価する。

「上下にこまかなピッチがあるのですが、これはベルト張力が強く、剛性の高いタイヤにみられるもので、まったく許容範囲内です。サイドウォールに厚みがあるからといって、たとえばコーナリングの応答が遅いとか、微小舵角の反応が鈍いということもありません。どうです? 言われなければこれがランフラットタイヤだなんて、意識することがないのではありませんか? 路面のインフォメーションがドライバーにきちんと伝わるので、スポーツシーンでも安心して走らせることができます」
新車装着された「SP SPORT MAXX GT 600 DSST」は、前後異サイズの設定とは前述したとおり。トレッドパターンもフロントとリアとでのデザインが違う。さらにこまかく言うと、アウト側とイン側とではデザインや内部構造が異なり、回転方向も指定されている。
つまり、前の左右、後ろの左右、4本のタイヤにはそれぞれの役割があり、4本がセットでそろうことでGT−Rプレミアム・エディションT−specの性能はフルに発揮されるのだ。新車装着タイヤは〈究極の専用タイヤ〉と呼ばれるゆえんはそこにある。
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。