
23年8月1日に東京都新宿区から群馬県太田市へと本社機能を移転した日本ミシュランタイヤ。24年11月には新社屋PARK棟の竣工披露を祝う式典を行っている。事業創業の地、太田への移転を経験したことで〈めざす姿〉への歩みを着実に進める。
「クルマは進化をつづける。社会からはより安全に対する期待が高まり、環境負荷の低減が一層強く求められる。それを実現するためには、研究・開発部門にとどまらず、すべての部署が一丸となって取り組むことが最重要。本社を移転したこと、PARK棟という新社屋をつくったことで、より良い製品をお届けすることができる」——本社移転の意義について、日本ミシュランタイヤの須藤元社長はこのように語る。
〈群馬から世界へ〉というアイキャッチを掲げる通り、同社ではタイヤ新商品を相次いで開発し、市場に積極的に投入している。
この春にはSUV・乗用車用プレミアムコンフォートタイヤ「PRIMACY(プライマシー) 5」を上市した。ウェット性能と環境性能というトレードオフの関係にある性能を、高いトータルパフォーマンスにより高次元で両立。〈PERFORMANCE MADE TO LAST——最後までつづく性能をめざして〉というミシュランのタイヤづくりのカギとなる思想についても具現化を果たす。
ごく近い将来に前記とは異なるカテゴリーの新プレミアムタイヤを発表予定。またモーターサイクル用タイヤ3商品や、エンデュランスカテゴリー向け自転車用タイヤでこのほど、新商品をラインアップに加えた。

新社屋のPARK棟は壁や扉で閉ざされる空間を極力減らすつくりがコンセプト。ユニークな建築デザインを採り入れることで、部門間の〈見えない壁〉をも取り払い、自由闊達に意見を交換し共有することが可能な場とした。会議をはじめワークショップなど、多様なスタイルでの集会に活用しているという。
俯瞰的な立場に立つと、移転はさまざまに指摘される現代の社会課題の解決にむけた意欲的な取り組みと評価することができる。具体的には〈脱・東京一極集中〉〈地方創生〉〈地域経済の活性化〉だ。
しかもこの先、少子高齢化で生産労働人口の減少がつづき、企業の現場は人手不足が長期化するとみられる。製造業や自動車産業が盛んな太田市周辺では、労働人口の減少をいかに防ぐかは喫緊の課題。世界的に著名な日本ミシュランが本社を構えた事実は太田市にとって高い価値となる。キャリアチェンジを地域内で実現しエンゲージメントできれば課題解決への道筋をつけられる。
事務所棟のエントランスにはミシュランがグローバルで掲げる「WE DREAM THAT IN 2050」という四つの目標をパネルで示す。「誰にでも好きな仕事に就くチャンスが平等にある」「生産されたすべてのものが無限にリサイクルされる」「人間の活動が地球の温暖化を逆転させる」「すべての人々が健康で長生き」。
〈群馬から世界へ〉とは、単に地理的意味合いにとどまらない。現在から2050年、さらにその先の未来へと、確かにつなぐ「助走」を表現するものだ。