住友ゴム「LE MANS V」高次元の静粛性と快適性

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カテゴリー: レポート, 試乗

細部まで快適性能と静粛性を追求

 住友ゴム工業は3月24日に兵庫県淡路市で低燃費タイヤの新商品「LE MANS V」(ル・マン ファイブ)の試乗会を実施した。

 「LE MANS V」の開発に際し、西実専務執行役員は「今までのダンロップとは異なる柔らかさを目指した。10m乗れば違いが分かる」と力強く語る。開発には1年半を要し、西専務自ら何度も試乗を繰り返し完成した。

 その特徴が最も大きく表れているのが接地面の形状だ。従来品の「LE MANS 4」は、接地面積をより大きく確保するために四角い形をしている。それに対し、新プロファイルを採用した新商品は、同等の接地面積を確保しながらショルダー部が丸くなり、全体的に円形に近い。

 丸い形状はトレッド部の中央から徐々に接地するため、地面からの衝撃を緩和して振動を抑制する効果がある。同時にショルダーブロックの角が路面を叩くノイズの発生を抑え、今までにない静粛性を達成した。

西実専務と増田栄一執行役員
西実専務執行役員(左)と増田栄一執行役員

 今回採用した新技術「シノビテクノロジー」により、サイドウォールとトレッドのクッション性を向上しつつ、サイドウォール全体をたわませることでバネ効果を増強し、段差を乗り越えた際の衝撃を効果的に吸収。ノイズの発生も抑制している。加えて刷新された非対称パターンにより、外側のブロック剛性を強化。耐偏摩耗性能を27%もアップ。接地面のブロック数を増加し、路面からの衝撃を分散して振動を抑制している。

 結果として従来品よりロードノイズを36.9%、パターンノイズを32.4%低減した。

LE MANS V試乗会
「LE MANS V」

 開発を担当したタイヤ技術本部第一技術部の岡川洋士さんは、「細部までノイズ抑制と快適性能を追求した。一つの音域の静粛性を高めると、今度は異なる音域のノイズが目立ち始める。全体的にノイズを抑えるのは非常に難しかった」と話す。

 「例えば縦溝に採用した、細かな溝壁セレーションという突起。これは静かに飛ぶフクロウの翼からヒントを得たもの。空気の流れに小さな渦を作ることで、シャー音を軽減している」

 また「操縦安定性も大きく向上している。特にパターン改良によって後輪の追従性が上がった」という。この点も重点的に改良を加えた部分だ。

発進時から分かる柔らかな乗り味

 今回は絶対評価と相対評価で国内外の合計6車種で比較を行った。

LE MANS V
LE MANS V

 最初に違いを体感したのは、会場となったホテルの地下駐車場からの発進時だ。非常に静かな環境の滑らかな路面で、新商品は濡れた石鹸を滑らせるようなスムーズさで発進した。

 一般道ではアスファルト舗装のパターンが異なってもほぼロードノイズは聞こえず、かえって車体が持つ音がより目立つ。高速に入り合流のため一気に加速しても、ゴー音やシャー音が小さく聞こえない。急な車線変更を行っても引っ張られる感じがなく、球体を転がすような滑らかさで後輪が素直についてくる。ジョイント部を乗り越えた衝撃も軽く、特に接地の瞬間が柔らかだ。

 そこにタイヤがあることを忘れるような感触だが、新パターンによってトレッド部がしっかりと路面に密着しているため、カーブではハンドリングをしっかりと支え、車体全体を運ぶ。

 従来品とはまったく方向性が違う新商品の乗り味。その理由をモータージャーナリストの瀬在仁志さんが解説してくれた。

今までとは異なる概念

 「このタイヤは、今までのダンロップのイメージとはまったく異なる、新しい挑戦と言っていい」と瀬在さんは話す。

瀬在仁志さん
モータージャーナリストの瀬在仁志さん

 「円形に近い接地面とサイドウォール全体のたわみによって、縦横だけでなく上下方向にも柔軟に反応する。存在を自己主張しないので、車の性能をそのまま引き出す。そのため、車体との相性によってより性能を実感することができる」という。

 実際に日産「ノート」は遮音性がさほど高くないこともあり、加速すると風切音とともにエンジンノイズが目立った。しかし、高い遮音性が特徴のトヨタ「マークX」では音や振動を意識しない運転を体感できた。

 「接地面が丸く、タイヤからの情報入力が少ないのが特徴。球体を直径方向に切り取ったイメージをすると分かりやすい。ハンドルを切った時、従来のタイヤはどこか踏ん張ったり引っ張られたりと、ハンドルに現在の情報を返してくる。しかしこのタイヤはどこまでもスムーズに動き、攻めてもゆとりを保てる」

 一方で、手応え感が薄いので、物足りないと感じるドライバーはいるかもしれない。ただ、「高速域になると手応え感が増す」という特徴も備えている。

 高速でのコーナリング時の車体の安定については「4輪で粘ることを前提としているタイヤ。通常は外周や内周のタイヤが踏ん張ることで耐えて曲がるが、これは4輪全体で粘るようにして柔軟にたわみ、車体を路面に押し付けて安定している」――そのため押しつぶした低反発素材が戻るような、ゆったりと柔らかい手応えで直線に戻る。

 瀬在さんは「新商品が出て早々だが、これだけ違う方向に進んだあと、次でどんな進化を見せてくれるのか。これからが楽しみ」と期待感を示す。

 ダンロップによる新しい試みともいえる「LE MANS V」。体感できる快適性能の違いは、これからの進化を予感させるものだった。


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