整備士に特化した総合支援サービスを展開
池田陽花Dilecta社長
深刻な社会問題となっている「人手不足」。自動車整備業界にとっても事業を継続するうえで大きな課題となっている。整備士に特化した転職/採用支援など自動車業界総合支援サービス「メカニクル」を展開する株式会社Dilecta (東京都港区)の池田陽花社長=写真=は、「整備士ファースト」で働きたい環境づくりをするよう提言する。池田社長に人手不足解決のヒントを聞いた
元整備士の女性がつなぎ姿で自動車整備やなにげない話を、熱っぽく論じ、ときに飄々とした語り口で――「元整備士のいけぺろ社長」は、TikTokでそんな動画を多く出す。「いいね」の数は120万超。その姿はさながら「ティックトッカー」だ。
この「いけぺろ社長」こと池田陽花氏が、自動車業界総合支援サービス「メカニクル」を運営するDilectaの社長だ。TIkTokをはじめとしたSNSの総フォロワー数は20万人超。発信を通じてメカニクルの知名度も上がる。現在は転職を希望して登録する整備士は3千人超となっている。
こうした発信力もあり、企業からの引き合いも強い。大手含め20社と契約し、転職希望者とのマッチングやSNSの運用支援を行う。
人間関係や給与面で不満。20~30代に転職希望多く
池田氏が取材中、一貫して発したキーワードが「整備士ファースト」だ。その思いは転職者と接することで募っていった。
メカニクルに登録する人のボリューム層は、有資格者の20~30代。転職を検討する理由は「人間関係」や「給与」が目立つ。
池田氏は人間関係について「若手とベテランの間の層が抜けていて、近い立場で相談できる相手がいない」と説明する。相談できずに職場にいづらくなって退職・転職することが多いという。
給与面はどうか。整備士の平均年収は300~500万円。収入は微増傾向にあるものの生活費の高騰もあり、恩恵は感じにくい。整備士をやめて、トラックドライバーへの転身や他業界へ転職するケースも少なくない。
池田氏は「時代の変化に対応できていない」と厳しく指摘し、「いまこそ変わるべきだ」と訴える。
成功企業が注力するのは給与や社内制度の適正化
しっかりと人材を確保している企業もある。では、そういった企業はどのような施策を打つのか。
池田氏が好事例企業として挙げるのは、創業50年の整備工場だ。人材採用と定着に成功しているという。
施策についてたずねてみると、最初に挙がったのが「ほかの業界も参考にして求人情報や待遇面の見直し」だ。池田氏によれば「工場によっては求人情報や給与体系の見直しを行わず、現在の水準とかい離しているケースも少なくない」とのこと。この工場では求人情報を見直し、応募者の年齢に見合った給与を提示しているという。
採用後の課題は定着だ。整備士の定着率を上げるために人事評価を見直し透明性の高い成果主義を取り入れた。
たとえばオイル交換を行う際に、整備士がより高価ではあるが付加価値も高いオイルを薦めて顧客が購入すれば、その成果を評価し給与にも反映している。社員のモチベーション向上や工場の利益確保につながっている。
こういった成果主義を意識づけることで、作業の効率化も促すこともできる。池田氏は次のように説明する。
「たとえば車検を行う際に、1時間に1台だった作業を2台にできれば、売上は多くなる。この工場では成果を適正に評価することに加え、こういった効率化ができれば『給与で還元する』ということを社員に伝えている」
評価の透明性を高めて、効率化にも社員の目を向けさせる。このような取り組みは社員を定着させ、かつ経営改善にも貢献する。
池田氏はこの工場について「将来的に採用コストを圧縮することができ、その分を社員へのさらなる還元や事業投資に回せるのでは」と見通しを語る。社員が定着すれば、ベテラン・中堅・若手のバランスのよい職場をつくることができる。若手に近い立場の社員がいることで、離職原因となっている人間関係も改善しやすくなる。
この事例は待遇や人事評価を「整備士ファースト」にすることで、人手不足解決への道筋を示している。池田氏はこの事例から「待遇や職場の改善は企業にとって〈コスト〉と考えがちだが、実はリスク回避と成長のための〈投資〉なのだ」と強調する。
整備士は魅力的な仕事。人材が集まる業界へ
池田氏は整備士の仕事について「AIが代替する可能性は低く、人の手によって成り立っている。将来性のある仕事だ」と言う。手に職をつけたい人にとって「魅力的な選択肢のひとつ」なわけだ。
Dilectaではそういった人向けに自動車整備士資格取得の支援事業を来年スタートする。自動車整備士になりたい人の資格取得から就職先までをサポートする。
池田氏は「私たちのミッションは、人材紹介がなくても整備士人材が集まる業界をつくること」だと語る。若い人たちが整備士を目指し、良い職場には多くの人が集う。「整備士ファースト」はそんな業界をつくっていくための絶対条件だ。