ミシュランが見据える未来――「Movin’On2019」開催

 「CASE」(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)や「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)といった自動車産業の革命とも言われる大きな流れに遅れまいと、技術開発や企業間の連携が活性化している。ただ、視点を変えれば、これらはモビリティそのものが将来にわたり持続してこそ実現するのではないだろうか。その未来に対して最大の脅威となるのが環境問題だ。グローバルで地球環境への対応が待ったなしの状況にある中、独自の基準を設けたり、社会的課題への貢献を掲げたりするケースは少なくない。だが、一段上のステージから「持続可能なモビリティの発展のためにできることは何か」と問いかけ、取り組みを加速させているのが仏ミシュランだ。目先の課題や自社の利益のみを追い求めるのではなく、真の意味での“サステナブル”を目指すためにやらなくてはならないことは――同社は6月4日から6日にかけて「Movin’On」(ムービング・オン)と銘打ったイベントを開催し、新たなソリューションやイノベーションの創出に向けて“行動”することの重要性を訴えた。

結束を生み出す場「Movin’On」

フロラン・メネゴーCEO
オープニングセレモニーに登壇したフロラン・メネゴーCEO

 「未来をより良いものにしたいのであれば、今こそ行動を起こす時だ」――「ムービング・オン」の開会式でミシュランのフロラン・メネゴーCEOはこう力を込めた。「ムービング・オン」は“持続可能なモビリティ”をテーマに、同社が2017年から毎年カナダのモントリオール市で開催しているイベント。自動車関連企業だけではなく、スタートアップ企業や環境団体、自治体など産官学の関係者約5000人が参集し、様々な角度から意見交換が行われたほか、環境問題の解決や新たな交通システムにつながるソリューションが紹介された。

 ミシュランは従来「チャレンジ・ビバンダム」と題した活動を行ってきたが、2017年に「ムービング・オン」へとリニューアルした。「チャレンジ・ビバンダム」が技術の展示会に近いコンセプトで開かれていたのに対し、「ムービング・オン」は参加者同士が共鳴して化学反応を起こし、イノベーションへの進化を期待している点が大きな特徴だ。

「Movin'On」の会場
「Movin’On」の会場

 なぜ、一企業に過ぎないタイヤメーカーがこのような取り組みを行うのか――サステナブル関連部門を担当するニコラ・ボモン上席副社長は、「ミシュランだけでは完結せず、パートナーと力を集結する必要があるが、力を合わせて持続可能なモビリティを作り出す場所はどこにも無かった。多くの人を巻き込み、皆が当事者意識を持って活動することが重要だ」とその意義を話す。

 モビリティが継続できなくなれば、自分たちのビジネスが発展できないばかりか、いずれは成り立たなくなるとまで捉えるのは少し大袈裟に思えるかもしれない。ただ、環境問題への取り組みはもはや単独では対応できないレベルまで高まったという危機感が根底にあるのは間違いない。

「Movin'On」の会場
「Movin’On」の会場

 スタートしてから3回目ではあるが、ある会社が持つ技術と別の会社のアイデアが「ムービング・オン」を通じて結ばれた結果、新たなコンセプトが生まれたケースも既に出てきている。

 ボモン上席副社長は「持続可能なモビリティの実現には長い時間が掛かるが、アイデアが集まりアクションを開始するといった成果は出ている」と手応えを語る。

 その上で目指すべき姿は、この潮流を個人レベルまで落とし込むことだという。「ムービング・オン」にはその名の通り、“行動せよ”というミシュランからのメッセージが込められている。

ミシュラン自らも革新を創出

「Uptis Prototype」(左)と「VISION」
「Uptis Prototype」(左)と「VISION」

 ミシュランは単に場を提供するだけ、行動を促すだけの立場にとどまるわけではない。

 2017年のイベントでは持続可能なコンセプトタイヤ「VISION」(ビジョン)を発表して業界に大きなインパクトを与えた。また、昨年は2048年までにタイヤ原材料の80%を持続可能な材質に置き換え、全てのタイヤで100%リサイクルを達成するという目標を公表している。さらに今年は新たなエアレスタイヤを発表した。メネゴーCEOが「持続可能なモビリティに対する当社の戦略が達成可能であることを示す」と話すように、「VISION」を具現化するための重要な一歩を自らの技術力で提案してみせた。

 一方で、社会への貢献とビジネスをいかに両立していくか、そしてこの先進技術をどう普及させていくかという点が課題になるが、同社は「持続可能なモビリティ社会を本気で実現する」と強い意欲を見せる。

 その自信と決意は、ミシュランが過去に成し遂げてきた変革の歴史があったからこそ示されるものだ。当初はマーケットから見向きもされなかったが、今ではスタンダードとなった技術は少なくない。これまでもこの課題に何度も直面し、乗り越えてきた末にたどり着いた答えは「ユーザーの価値となり、受け入れられることが技術革新だ」――同社の幹部はこうも語る。「今、当たり前でないことも20年後、30年後には当たり前になっているかもしれない」

 来年も開催が決まった「ムービング・オン」。積み重ねられる行動が、将来のモビリティに不可欠で普遍的なイノベーションへ発展していくことに期待したい。

関連:ミシュラン、VISIONコンセプト実用化に向けた一歩 エアレスタイヤ発表


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