タイヤ内に窒素ガスを充てんする 安全と環境、経済性の観点から、通常のエアー(空気)に対し得られるメリットは非常に大きい。中でも広く知られているのは「窒素ガスを充てんするとタイヤ空気圧が減りにくい」こと。その理由とは何か――。
タイヤの主原料である天然ゴムのガス透過係数を比較するとヘリウム1.0、酸素0.8に対し、窒素は0.3。数値が大きくなるほどゴム膜を構成する高分子の隙間からガスが抜けやすくなることを、この数字は意味している。

つまり窒素ガスを充てんすると、タイヤ空気圧が通常のエアーよりも長い期間、適正に保たれることになる。検証データによると、約3カ月間、自然放置したタイヤの空気圧の推移をみると、窒素ガス充てんの場合、通常のエアー充てんに比べその低下量は約2分の1だった。
従って窒素ガス充てんには、①空気圧を充てんする頻度を減らすことができる、②空気圧不足に起因する走行性能の低下や燃費の悪化、偏摩耗の発生を抑え、タイヤ寿命にプラスに作用する――これらへの期待が高い。
タイヤ空気圧が減りにくいという窒素ガスのメリットに、エコドライブやセーフティドライブに対する意識の高いタイヤ販売関係者、ユーザーが注目するのも道理だ。
またこれら以外にも「不活性ガスであり酸素を含んでいない窒素は、ホイールやバルブ部、タイヤ内部のスチール類の酸化・錆び・腐食を防ぎ、タイヤの劣化を抑制する」「窒素は不燃性の気体なので、事故など不測の事態でも火災や引火による二次災害の危険性が少ない」ことも、窒素ガスの利点として挙げられる。
市場で今、改めて注目が集まる窒素ガス充てん。その作業の効率化を目指し、東洋精器工業(兵庫県宝塚市、阿瀬正浩社長)はこのほど、乗用車用窒素ガス発生装置に新製品をラインアップに加えた。「NI-160P」がそれ。この2月から本格販売を開始した。
販売企画部の本多茂隆副部長によると、新製品の窒素ガス発生量は1分当たり93リットル。これは乗用車用としてはトップクラス。50リットルのタンクを本体に内蔵し、窒素の発生量とチャージ能力を高めた。ものの数分で規定内圧まで充てんすることを可能としている。その能力を活かし、「NI-160P」はタイヤ4本の同時充てんを実現した。

本多さんは「チャック付ホース4本を標準装備しています。同じ内圧で、乗用車1台分を同時に充てん作業することができますし、連続充てんを行う場合でも待機時間の心配もありません」と説明する。
自動充てんユニットも標準装備したので、作業者は充てん中に傍らで待機する必要もない。そのため作業効率を大幅に高め、作業中の安全性も高めている。
また新製品には「充てん・排気リピート機能」を搭載した。かつて、窒素ガスの充てんに際しては、真空引きといって、タイヤがペシャンコになるまで内部のエアーを抜いてから窒素ガスを充てんしていた。内部の窒素の濃度を高める必要があるからだ。
なぜなら通常のエアーは、体積の割合として窒素78%、酸素21%、アルゴン0.9%で、残りの0.1%がネオンやヘリウムなど希ガスと呼ばれるもので組成されている。真空引きを行うことで、内部の窒素ガスの濃度を高めたのだ。

それが現在は通常2度充てんで、窒素濃度は95%以上を保持。それにより窒素ガス本来の機能を発揮できるという。新製品は「充てん・排気リピート機能」で最大9回まで自動リピートを可能にした。
この窒素の濃度は付属のハンディタイプの「N2濃度テスター」で手軽にチェックが可能。「デジタルエアゲージと同様、手元で数値により窒素濃度が示されますので、お客様への説得力が増します」、そう言いながら本多さんが実演してくれる。
「NI-160P」にはさらに、設定充てん圧よりも任意で指定kPa分高く過充てんさせた後減圧する「過充てん設定」が可能。確実なビードシーティングを実現した。タイヤに一定以上の内圧が残っていれば、エアーチャックを接続するだけで自動で作動する「オートスタート機能」も搭載している。
また「NI-160P」はキャスタータイプなので、作業場所を選ばず、ピットのどこでも窒素ガス充てん作業を行うことができる。
本多さんは「低燃費タイヤが普及したことで、空気圧管理の重要性がますます高まっています。このようなことから窒素ガス充てんのメリットがクローズアップされています。4本同時充てんを可能にした新製品は、窒素ガス充てん作業の効率を高め、ユーザーへの訴求力も高めています」と話す。
タイヤ販売店において、他店との差別化やリピート来店の向上、工賃収入増による収益力の向上が期待できる機器と言えそうだ。