衝撃の需要減――新型コロナウイルスが変えた世界

 日本で新型コロナウイルスの感染が初めて確認されてから3カ月が経過した。当初、中国国内の問題と見る向きもあったこの感染症は瞬く間に世界へ拡散。過去最大級の経済危機とも言われる状況は、人々の生活を大きく変えた。各国で外出の禁止や自粛、企業活動の制限などの措置が強化され、タイヤ産業でも工場の稼働停止と生産調整、急激な需要の減速が連日のように伝わってくる。感染の収束は見通せず、先行きへの不安は消えない。一方で、この状況だからこそ業務体制のあり方を未来に向けて変化させる取り組みも出ている。

 米グッドイヤーは4月16日に第1四半期業績(暫定値)を公表し、同社の1~3月のタイヤ販売本数が前年同期と比べて約2割減ったことを明らかにした。その上で、「自動車メーカーが生産を停止した後、世界的に新車用タイヤの出荷量が大きく減少した。広範にわたる外出禁止令に伴って市販用タイヤの需要も落ちている」とコメントした。4月に入り、独コンチネンタルは通期の業績予想を取り下げ、伊ピレリも早々に業績の下方修正を発表している。

 また、欧州タイヤ・ゴム製造者協会(ETRMA)が発表した欧州の1~3月の市販用タイヤの販売本数は、コンシューマータイヤ(乗用車用、SUV用、ライト・コマーシャル・ビークル用含む)が前年同期比13%減、トラック用タイヤは6%減だった。感染が広がった3月単月ではコンシューマータイヤが26%減、トラック用は15%減と大幅な落ち込みを示している。新型コロナウイルスが与えるインパクトが、具体的な数字となって徐々に鮮明になってきた。

生産を再開した中国の工場
生産を再開した中国の工場

 振り返れば、その影響が最初に表れたのは2月。中国でタイヤ工場の稼働がほぼ全面的に停止した。その後、現地の生産は再開しつつあったものの、3月以降は、大手メーカーをはじめとして欧米やアジアで工場の稼働を停止したり、需要の減少を受けて生産調整を行ったりするケースが目立ってきた。

 感染から従業員の安全を確保するという観点からもブリヂストンや仏ミシュラン、グッドイヤーなどは一時、各国で複数の生産拠点を休止した。ブリヂストンは5月の大型連休前後に国内で8カ所のタイヤ工場を休止することを決め、住友ゴム工業やTOYO TIRE(トーヨータイヤ)も海外拠点のほか、国内での生産調整を実施した。早期にフル生産に戻った中国の中策ゴム(ZCラバー)のようなケースもあるが、生産量を以前の水準まで回復させるにはまだ時間がかかりそうだ。

 販売に与える影響も深刻化している。ミシュランによると、2月末時点でグローバルでの消費財タイヤの需要は前年同期比9%減、トラック用タイヤは16%減となっており、ピレリは「非常事態」として2020年のタイヤ需要見通しを19%減に引き下げた。

 新車用タイヤは特に需要減少が目立つ。欧州5割減、米国と中国はともに4割減、インド6割減――これは主要市場の3月の新車販売台数を前年同月と比べた数値だ。4月も大幅減は避けられないとの見方があり、新型コロナウイルスが与える影響は計り知れない。

首都圏では車が往来が減った
首都圏では車が往来が減った

 3月時点では新車用タイヤ、市販用タイヤともに約1割減と、海外に比べて減少幅が小さかった国内市場も今後の見通しは不透明だ。

 首都圏のタイヤ専業店では「緊急事態宣言が発令された後、交通量が半分以下になった」と話す。トラック用タイヤをメインに扱っており、主な顧客である運送会社が通常通りに稼働しているため、現時点での影響は少ないという。それでも「ユーザーの気持ちの面も含めて、数カ月先には波及してくるかもしれない」と警戒感を示す。

 凄まじい勢いで世界を変えてしまった新型コロナウイルスだが、海外の一部地域で経済活動再開への動き見られるなど僅かながら“兆し”は出てきている。改めて意識したいのは、いつの時代もタイヤは社会インフラを支える重要な役割を担っているということだ。態勢を整えながら、攻勢に転じる時を待ちたい。

新たな体制づくりで危機へ対応も

 人との接触を減らすことが第一に求められる新型コロナウイルスへの対応。この制限がきっかけとなり、タイヤ販売の現場ではデジタルツールの活用が次々と取り入れられている。“コロナ後”も見据えれば、顧客との接点の持ち方が変化していく可能性がある。

 ピレリはタイヤディーラー向けにデジタルトレーニングプログラムを開始した。3月中旬から既存のeラーニングプログラムに新たな内容を加えているという。ディーラーに向けてロックダウン(都市封鎖)の期間でも「最良の営業戦略」(同社)に焦点を当てたメールを毎週送信。さらに、販売員向けにはデジタルマーケティングや顧客管理に関するウェブセミナーを提供している。こうした取り組みは経済活動が回復した際に新たなビジネス関係の構築を図ることも狙いだ。

 中策ゴム(ZCラバー)は3月から新商品の技術説明を行うライブ配信の販売を始めた。「昔ながらのシステムに頼っていたタイヤ業界」(同社)の中で、デジタル化を推進していく意向を示している。

 北米でディーラー向けのウェブ説明会を展開しているのは住友ゴム工業だ。現地メディアの報道によると、同社が開催するネット会議では販売店向けに有用なマーケットデータなどを提供しており、商用車用タイヤや二輪車用タイヤの情報もカバーしていくという。

 店舗でも新たな仕組みができつつある。感染防止で対面による接客が難しくなる中、グッドイヤーは全米の直営店で“接触しない”サービスを導入した。オンラインや電話で予約を受け付け、顧客が持ち込んだ車両は手袋をしたスタッフが移動して作業を完了させる。同社はフリート向けにも接触を極力避けた上で、タイヤのメンテナンスを提供するサービスを始めている。

 ピレリも欧州にあるタイヤ販売店で“社会的距離”を確保しながら安全にタイヤ関連のサービスやメンテナンスを実施する試みを開始した。同社では、ネット予約サービスも導入しており、「デジタル技術で販売網を支えていく」と展望を示す。

 危機に対応しながら、直接対面することが求められる部分と、ネットツールで対応できる業務が明確化されることで、将来に向けた新たな価値が生み出されていくかもしれない。

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