住友ゴム工業 池田育嗣社長「住友ゴムWAYを基本に」

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カテゴリー: インタビュー, 特集

 「高収益・高成長の真のグローバルプレイヤー」を目指し積極的に事業を展開する住友ゴム工業。中期経営計画の最終年度を前に地歩を固めている。目標に向け、いかに取り組むのか。池田社長がその心境を語った。

目標数値の超過達成を 

 ――先日、14年12月期第2四半期の連結決算を発表されました。まず、業績に対するご感想をお聞かせください。

住友ゴム工業 池田 育嗣社長
「真のグローバルプレーヤーを目指す」

 「おかげさまで売り上げ、利益ともに過去最高を更新することができました。しかし、経営環境はどんどん厳しくなってきているのは事実です。米国の景気は良くなってきていますが、中国は下期にかけて減速感が現れてきています。また価格競争も厳しくなってきています。

 このような中、下期にかけては当社の競争に対する〝強み〟を活かしていかなければなりません。通期で売上高8400億円、営業利益840億円を計画していますが、それ以上のものを狙っていきたい。と言いますのも、来年が中期経営計画の最終年度で、そこでは売上高9400億円、営業利益1000億円を数値目標としています。14年度中にその数値にいかに近づくかが、下期にかけてのテーマとなってきます。掲げた数値に対し確実に超過達成するというのが、当社のやり方ですから」

 ――住友ゴムの〝強み〟を考えると、第一にグローバル生産・販売体制の構築を挙げることができるのではないでしょうか。

 「計画以上の進行度合いで、生産拠点の拡大をグローバルで進めてきています。最近では中国・湖南工場、ブラジル工場、南アフリカ工場、また今年にはタイの農機用タイヤ工場、さらに現在建設中のトルコ工場は来年に稼働を開始する予定です。それ以外でも、タイ工場の生産拡大も順調に進めてきています。本年末には日当たり8万本まで能力増強する予定ですが、これを将来的には10万本まで引き上げる計画です。

 当社は新興国――とくに中国、中南米、中近東、ロシア、インド、アフリカといった地域で販売量を増やしていくという計画を立てています。これら地域で販売量を増やすために生産拠点を新設していますが、このような地産地消はお客様にも歓迎していただいているのです。お客様のニーズがよくわかりますし、それに対応する商品化のタイミングも早くなります。商品を供給するまでには開発期間がありますから、トータルのリードタイムとして考えても地産地消は非常に意味があります。

 お客様のメリットのほかに、これは当社にとっても大きなプラスとなります。例えば、日本で生産し輸出するよりも為替感応度が大きく下がりますので経営としては安定してきます。これはビジネスチャンスにもつながってきます。

 今、申し上げたうちインドとロシアには、当社は生産拠点を持っておりません。この地域で販売活動を開始してきて、最近わかってきたことがあります。ロシアの場合、天候の影響をとても強く受けます。天候次第でタイヤ販売量が大きく変わる。そのエリアで、当社の販売量はまだ足りません。そこで生産供給する前に、もっと販売力をつけなければなりません。それが先決です。あと2、3年後には目標に到達したいと考えています。

 インドについては計画通り現地販売会社を設置し、販売活動に積極的に取り組んでおり、販売量は15年末で68万本を計画しています。このインドの場合、州ごとで――国内には州が約30もあるのですが――税率も違えば、商売のやり方も違う。主要な州ではビジネスはうまく行っていますが、全土となると当社の力はまだ足りていません。それを今年から来年にかけてきちんと整備し、販売力をつけてから、生産拠点を構えるということになります。これも最低でも2年くらいはかかると考えています」

ブラジル増強が急務

 「新興国市場で最大の中国市場ですが、この中国市場は新車用のニーズが強いのです。当社はそれへの供給が追いついていない。日本車に限らず、VWなど欧州車メーカー、さらには中国ローカルのメーカーからもダンロップブランドが欲しい、そういうニーズが強くなっています。それに対応すべく今、常熟と湖南工場合わせて15年に日産5万7000本まで生産能力の拡大を図っていきます。

 一方、昨年完成したブラジル工場では生産拡大のスピードを上げていきたい。来年末には1万5000本へと増強していきます。ブラジル工場は用地が非常に広いものですから、将来的には3万本、あるいはそれ以上の生産能力拡大を考えています。

 先日、ブラジルやチリなど南米に出張したのですが、現地の工場関係者には生産能力拡大のスピードを上げて欲しいと要求してきました。と言いますのは、チリやペルー、アルゼンチン、ベネズエラといった地域では、ブラジル工場で生産したタイヤの供給が足りていません。足りない分を日本やタイから輸出している状況です。

 ただ輸出の場合、現地に届くまで3カ月くらいかかってしまいます。それではお客様をお待たせすることになりますし、いろいろな環境変化に即応することができません。納期を短縮する工夫に取り組んでいますが、やはり同じ南米にあるブラジル工場から供給するのが一番なのです。

 南米全体として見ますと、中国に次ぐ規模の市場になると考えています。その南米市場のお客様に聞きますと、ダンロップに対する期待が非常に高いのです。だからニーズに合ったタイヤが早く欲しいのだと、そういうご要望をどこでも聞きます。従って、ブラジル工場の早期の生産能力拡大は重要なテーマとなります。

 一方、南アフリカではそれまでのアポロタイヤ社のレディスミス工場を当社の南アフリカ工場として操業しました。現在は日当たり1万本弱の生産能力です。それを1万2000本、その次に1万5000本へという目標で、能力増強に取り組んでいるところです。

 この南アフリカですが、高性能タイヤのニーズがかなり強いのです。道路事情は欧米レベルに近づいてきていますし、高級車も多い。ですから、当社の高性能タイヤの技術を活用したタイヤビジネスを展開するという期待があります。ただ残念ながら、南アフリカ工場は高性能タイヤを生産できる設備が少ない。従って、今から高性能タイヤやSUVタイヤなど付加価値の高いタイヤを生産する設備を拡充していく計画です。

 アフリカ市場での20年の需要を当社では5400万本と予測していますが、南アフリカから中央アフリカの各市場については、工場の生産能力を拡大し、それを活用して供給していきたい。

 そして来年、工場が完成予定のトルコは、欧州をはじめロシア、中近東、それにモロッコやエジプトといった北アフリカなどの市場に向けての生産拠点となります。このトルコ工場の生産能力を早く上げていくことも重要なテーマです」

新興市場に積極展開を

 ――高性能タイヤを生産するのに最適な工法が、池田社長が開発に携わってこられた「太陽」だと思いますが。

 「「太陽」は1000本単位で生産能力を上げることが可能です。設備がコンパクトで投資効率も良い。また、通常のラインを導入した場合、従業員教育を行いスキルを習得しラインが立ち上がるまで半年かかってしまいます。ですが、「太陽」は自動化を取り入れているので、それが半分の3カ月で可能になります。

 「太陽」自体も完成度が上がっています。それを導入しているタイ工場は当社のグローバルトレーニングセンターの役割を果たしています。タイでトレーニングを受けた従業員を世界各地の工場に派遣しているという状況です」

 ――グローバルでの生産能力増強に取り組んでいるところですが、世界のタイヤ需要がどう進展し、住友ゴムの生産体制がそれとどうリンクしていくのかという視点ではいかがお考えでしょうか。

 「2020年時点で全世界のタイヤ需要は20億本と見ています。そのうち、中国を含む新興国が半分以上を占めるだろうと。そこで当社ではタイヤ販売の方向性として新興国市場に積極的に展開することを考えています。15年で中南米、中近東、ロシア、インド、アフリカでの販売比率を14%というのを目標としていますが、それを20年には20%に引き上げる。また中国は17%を目標としています。中南米とアフリカの伸びが想定を上回っていますので、14年の段階で15年の計画数値はほぼ見えてきています。従って、20年時点では当初の目標を上回るのではないかという期待感があります」

 ――販売量を増加させるときに、ダンロップの商標はテーマの一つとなるのではありませんか。

 「インド、マレーシア、シンガポール、ブルネイではダンロップブランドは使えません。しかし、今のところ、ファルケンブランドで積極的に販売を展開し、シェアを拡大できています。いずれなんとかしたいとは思いますが、ダンロップの商標獲得が喫緊の課題とは認識していません」

「4Dナノデザイン」活用

 ――視点をタイヤ技術関連に関して、100%石油外天然資源タイヤ「エナセーブ100」。このタイヤの開発には、だいぶ苦労されたのではありませんか。

 「「エナセーブ100」は当社の〝100年目の解答〟ということで、1913年に日本で初めて自動車タイヤの生産を開始し、それから100年目に100%の石油外天然資源タイヤをつくることができました。

 ここに至るまでは長い道のりがありました。97%までは計画に沿って開発が進んできましたが、残りの3%が非常に厳しかった。加硫促進剤と老化防止剤という薬品をどうするか、カーボンブラックをどうするか、これをいかに天然資源に置き換え、商業生産することができるか。これがとてもむずかしく、5年間を費やしました。

 商品開発もそうですし、設計技術、研究開発部門、生産部門と、全員が一丸となって取り組むことで、この〝100年目の解答〟ができたものと思います」

 ――その「エナセーブ100」に続いて、これもまた非常にハードルの高い技術テーマを掲げました。それが「50%転がり抵抗低減タイヤ」で、当初計画から前倒しして発売予定だと聞いていますが。

 「「エナセーブNEXT」という商品名で、9月8日から発売を開始しました。これは2008年から開発をスタートしたものです。当時、環境問題に対する意識が高まりをみせており、タイヤも低燃費化していかなければならないと考えていました。タイヤの転がり抵抗は自動車全体の走行抵抗の約20%を占めています。つまり転がり抵抗を半減すれば燃費は約10%も良くなるということになるのです。

 例えば、転がり抵抗を5%良くしたとしますと、自動車の燃費に換算すると約1%の向上ですので一般のお客様にはそれをなかなかメリットと取っていただけません。そうであるなら、転がり抵抗を半減させたというのであれば、おわかりいただけるだろうと考え、取り組み始めたものです。

 これも「エナセーブ100」と同様、目標が非常に高かった。技術陣が開発に取り組み、そこで活用したのが独自の新材料開発技術である「4D NANO DESIGN」でした。その中でも、特に天然ゴムが持つ低燃費性能をいかに活用するか。天然ゴムはもともと転がり抵抗にすぐれる素材ですから、それをうまく使いたい。 

 天然ゴムをナノレベルで見てみますと、分子のまわりはタンパク質などの不純物でカバーされています。その不純物が摩耗性能や転がり抵抗などに悪い働きをしていることがわかったのです。それを取り除きピュアな天然ゴムにすると転がり抵抗や摩耗性能がさらに向上するのです。

 「4D NANO DESIGN」を使うことで、天然ゴム自体を改質することができると。これが高純度天然ゴム「UPNR」です。余談ですが、天然ゴムは通常、飴色をしているのですが、「UPNR」は真っ白なのです。「UPNR」は天然ゴムが持っている本当の力を発揮できるものであり、それをはじめとする先進技術を採用することで、「エナセーブNEXT」は転がり抵抗を08年当時と比べ50%低減し、「エナセーブ」史上ナンバー1の低燃費性能を実現できました」


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