“無いものは無い”で生き残る――中古タイヤの太平タイヤ

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カテゴリー: ディーラー, レポート

 名古屋市中川区にある中古タイヤ・ホイール・パーツの販売・買取専門店、太平タイヤ。店舗の外壁に“世界最強の中古メガストア”と謳われている通り、2500坪の敷地に、他店を圧倒する在庫量を誇る巨大店舗だ。近年は中古品に対する抵抗が薄れて来店者数は増加している。その半面、安価な海外ブランドの浸透や個人売買を行う一般ユーザーもライバルとなり、事業環境は非常に厳しいという。こうした状況の中でいかに勝ち残っていくか――。松井重幸社長に話を聞いた。

 松井社長は自動車リサイクルを手がける家業の手伝いを皮切りに、今から30年ほど前に中古のタイヤ・ホイールを販売する店舗を愛知県稲沢市に構えた。その3年後には市内の幹線道路沿いに500坪の土地を借り業務を拡大。その地で15年間営業した後、名古屋港に近い弥富市に大型店舗を開業した。現在地に移転したのは2015年7月。その理由は消費者の行動変化が応えるためだ。

太平タイヤ
2015年に港湾地区から市街地に近い場所に移転した

 「ネット通販が出てきた頃に工業地帯で在庫を抱えてという商売は何年も続かないだろうと感じていた。弥富市は15分圏内に民家が全くなく、“安近短”の傾向に取り残されないよう、ユーザーに近い便利な場所で商売を行う必要があった」

 現店舗は駐車場を含めて2500坪。国道1号線沿いの好立地で、来店者数は年間3万人と、以前より2割増えた。また直近1年間の販売本数は夏タイヤが6万本、冬タイヤが4万2000本、ホイールは4万8000本と順調に推移しているもようだ。

 一方で、松井社長は「昔はライバルが少なかったが、最近は大手量販店も中古を扱っている。また個人売買も活発になっており、一般の人も競合になっている」と、事業を取り巻く環境の変化を語る。そして、その流れは今後一層厳しさを増すことが予想される。

 「個人から買うのが心配という人もいれば、安ければ良いという人もいる。同じ中古タイヤを販売するにしても、我々はいかにコストを下げて短時間で要点を説明するかが重要だが、一般ユーザーは時間をかけてでも写真を丁寧に撮影できる」

松井重幸社長
松井重幸社長

 だからこそ求められるのは高い品質管理による差別化だ。「一般の方では分からない部分も含めて、何重にもチェックをかけるしかない。他の中古チェーンなどでは、よく売りに出しているなと思う商品もあるが、当社は雑なものは売れない。バランスなどもきちんと点検して品質に自信を持って販売するからお客様にも信用して頂いている」

 同社の場合、検品作業を複数の工程で念入りに行うのが特徴だ。まず表面を見て問題が無ければ、そこでエアを充てんして1カ月保管する。それを取り外してもう1回内部を確認。社内の管理システムに最終入力する際に再びチェック、そして装着時に最終確認を行うのが大まかな流れだ。手間も時間もかかるが、絶対に譲れない部分だ。

 高いレベルの検品作業を任せられる人材を育てることにも余念がない。「私自身が今でも現場に行き、スタッフがどうやって検査をしているかを確認している。また教育の一環として、ちゃんとチェックをしていれば絶対見つけられる不具合を意図的に混ぜることもある。それによって緊張感とモチベーションを持って取り組んでもらえる」

太平タイヤ店内
豊富な在庫量を誇る店内

 近年はあらゆる分野で中古品に対する市民権が高くなり、タイヤでも「中古で大丈夫なのか」というイメージが払拭されてきた。その一方で、時代のニーズを先取りしたビジネスはライバルの追随を受ける。松井社長は「今後も高い品質管理を維持しながら、地道に目の前のことをやるしかない」と力を込め、その上で「かゆいところに手が届く店にしていきたい」と意欲を示す。

 湾岸地区の旧店舗は現在、倉庫として活用しており、数十万本の在庫があるほか、現在の店舗にも数万本を確保している。「どんなものでも揃えておく。お客様が欲しいと思った商品を『1週間後に』ではなく、『1時間お待ち頂ければ用意します』でなければならない。当店に来れば何でもある、“無いものは無い”を常に目指す」

 その上で「生きるも死ぬも戦略しだい。強いものが勝つのではなく、環境に対応したものが残る」と語る。――「これからも中古タイヤでやっていく。それが生き残る道となる」


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