山下タイヤー商店 規模をカバーする人間力

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カテゴリー: ディーラー, レポート

 東京墨田区菊川にある合資会社山下タイヤー商店。4月1日に創業63年を迎えた老舗だ。従業員は5名。コンビニや商店の並びにあり、文字通り地域に溶け込んでいる。主にカーディーラーや運送会社のほか、区や警察、消防などへの納入を行う同店には、ピットはわずか1台分という規模を巧みにカバーする人間力があった。

目標は顧客が期待する“さらに先”

山下タイヤー商店
山下タイヤー商店

 菊川の通りに面した同店は、山下剛久さんの妻の祖父が戦後間もなく当地に開業した。建物も規模も、開業当時から変わらない。「肩書はない」と笑う山下さんだが、高齢の社長に代わり、三代目として現場の実務を取り仕切っている。

 元々は他の業種に勤務していたが、結婚を機にこの業界に入り、「手探りでひとつずつ学んできた」と振り返る。

 試行錯誤の中、社長から学んだことでとくに大切にしていることがある。それは“人との繋がりのあり方”だ。

 「物事はギブアンドテイク。うちのような価格で競りにくい小さな店が付加価値を持つには、任せれば頼んだ以上が返ってくるという、数字にならない部分が大切」と話す。顧客の期待値の“さらに先”が目標地点だ。

 その仕事ぶりはとにかく真面目で誠実。利益よりもまず、顧客が嬉しいかどうかを考える。「大きな怠慢以上に良くないのが小さな妥協」

 店舗の従業員が日頃から実践しているのが、「例えばパンク修理の依頼でも、一緒に簡単な点検と修理をする」といったサービス。一見無償に見えるが、この小さな積み重ねが大きな仕事に繋がるという。

 「いつも世話になっているから」――そう言って交換や整備を全て任せてくれる顧客は多い。そして、こうした日頃の信頼関係によって、カーディーラーからの紹介や、社用車の定期的な整備などの依頼が多く舞い込む。

 また、顧客のもとには差し入れを持って行くことが多いという。

 「缶コーヒー一本でいい。気遣うことで相手の気持ちが和らぎ、仕事がスムーズになる」

 人は物にかぎらず何かを貰うと、自分も相手に良くしたいという「お返しの心理」が働く。心理学用語では返報性の法則といい、この心理状態を好意返報感と呼ぶ。お互いにポジティブな感情で働きかけられるため、円滑なビジネスに欠かせない手法だ。山下さんはこれを自然体で行っている。

左は山下剛久さんの子息の歩夢君。店を訪れる人に可愛がられ、わざわざ会いに来る顧客もいるという
左は山下剛久さんの子息の歩夢君。店を訪れる人に可愛がられ、わざわざ会いに来る顧客もいるという

 こうした顧客との繋がりが、店舗規模をカバーする秘訣でもある。「基本的に取引先へ納入して現場での作業だが、店舗へ車両を入れる必要がある時、お客さまが時間やタイミングを考慮してくれることも多い」

 一台分のスペースでも滞りなく作業を行えるのは、損得の一歩外側にある関係があってこそだという。

 今後の課題は、「小売の開拓」だという。現在、小売は売上全体の約1割にとどまるが、山下さんはその原因を「地域に馴染みすぎているがゆえの認知度の低さ」と分析している。

 開業以来、長年当地で生活しながら営業しているため、タイヤ販売店としての認知が薄くなっているのだ。言い換えれば、強みであるはずの地域密着が、逆に広告など大々的な宣伝活動を実行しにくい環境になっているのかもしれない。

 「ご近所付き合いを考えると、折り込みやポスティングは難しい。そこでインターネットを突破口に考えている。これからの時代、ウェブの存在は軽視できない」――効果を慎重に検討しながら、今後、アプローチを強化していく考えだ。

 「店の改築や移転は難しい。この規模、この位置で新しい顧客を取り込むには、今までとは違う切り口が必要」

 一時期は専業店の中にネット販売に対する嫌悪感に似た反応があったのも事実。だが、「ネットは価格競争が全てではない」と話す。その上で「こんな店が地元にあるのだと気付いてもらい、1つずつ丁寧に関係を作って、10年先に繋げていく。そのために大切なのは、急がない、そして焦らない」――先を見据え、最善の方法を模索している。

 「これまで一番弱いと思っていた場所に、実は一番のチャンスが眠っている」。そう語る山下さんは、今後もじっくりと地域に腰を据えながら、顧客の拡大を目指していく。


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