【横浜ゴム】ヨコハマモールド タイヤ金型生産の現場

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カテゴリー: レポート, 現地

 タイヤを生産する過程で必ず必要となる加硫。その工程で使用されるのが、様々な模様が刻まれた金型(モールド)だ。タイヤの性能に大きな影響を与えるこの部材にはモノづくりのあらゆる技術が詰め込まれている。横浜ゴムグループでタイヤモールドの生産を手がけるヨコハマモールド(茨城県小美玉市)は、業界トップクラスの高い技術で高品質なタイヤ生産を支え、さらに培ったノウハウを発信する重要な役割を担う。

グループのコントロールタワーの役割担う

 ヨコハマモールドの設立は2009年7月。1916年に創業した橋場鐵工からタイヤモールド製造事業を買収し、横浜ゴムの100%子会社として新たなスタートを切った。その後、2012年には横浜ゴムにあったモールド製造部門や設計機能をヨコハマモールドに移管するとともに、横浜ゴムの平塚製造所(神奈川県)の中に分室を設立して協業体制を強化してきた。

ヨコハマモールドの真間理一郎社長

 同社の従業員は約120名で、現在は14名が平塚に駐在し、横浜ゴムの開発者と一体となって新たなデザイン開発に取り組んでいる。ヨコハマモールドの真間理一郎社長は、「モールドは相当な数を生産するので、いかに効率良く作れるかが重要。難しいデザインも両社が一緒に検討でき、作りたいデザインを早く安く生産できるようになった」とそのメリットを話す。

 また従来は外部の業者に依頼していたモールドのメンテナンス作業を内製化することで、年間で数千万円単位のコスト削減にも繋げている。

 同社の場合、生産量を拡大することよりも品質向上や生産技術の開発に重きが置かれているのが特徴。モールド生産には簡単に機械へ置き換えることのできない人手に頼る部分が多く、国内での生産はコスト面で限界があるという。そのため、横浜ゴムのタイヤ工場で使用するモールドは海外の協力会社に生産を委託するケースも多い。

 ただ、僅かな狂いも許されないモールドに求められる技術は工芸品のように繊細で、かつ鋳造技術にもノウハウが詰まっている。そこで重要になってくるのが協力会社への技術支援だ。

モールド製造には緻密な作業が求められる

 真間社長は「海外のメーカーから調達しているが、まだまだ技術的に未熟なところがある。どのメーカーを選択し、どうやって育てていくかが課題」としている。

 こうした中、ヨコハマモールドには、“匠”とも言うべき熟練の技を有したエンジニアが在籍しており、海外拠点から人材を受け入れて研修も定期的に進められている。

 またスタッドレスタイヤやSUV用タイヤなどパターンが複雑で難易度が高い商品については、まずヨコハマモールドで技術を確立してから外部に展開することもあるため、常に同社がトップレベルの技術を持ち続けることが必須となる。

 いかに外部のサプライヤーをレベルアップしていくか――そのためには自身も更に高みを目指さなければならない。

 「サプライヤーの技術が向上したら、我々はその上へいかないと、ただ購入するだけになってしまう。性能が良くて安くて、どれだけ短納期で作れるか、その総合力が品質となる。納期が短くなればなるほどタイヤメーカーにとっては大きなメリットになる」

 横浜ゴムでは2018年からスタートする次期中期経営計画の中でウィンタータイヤの開発力強化や趣味性の高い車両向けタイヤのラインアップ拡充などを盛り込む予定で、金型生産にも一層高度な技術や生産性向上、リードタイムの短縮が求められてくる。

 現在、海外の3社とサプライヤー契約を結んでいるが、リスク回避の面から将来的に取引先を拡大する可能性もある。タイヤモールドに関してグループの“コントロールタワー”となるヨコハマモールド。同社が担う役割は今後一段と重要性が増していく。

製造の現場は各工程で緻密な作業の繰り返し

セクター
セクター

 タイヤのモールドは、トレッド部(セクター)と、ブランド名などが刻印されるサイドプレートで構成されており、セクターはアルミニウム、サイドはスチールが主な原材料となる。

 セクターの製造では、まずタイヤの設計図から樹脂材の「マスターモデル」を作製する。サイプが多数配置されているスタッドレスタイヤなど溝が複雑なデザインでは、設計図通りにするため特に緻密な作業が求められる。中には歯科技工士の専門学校を卒業した従業員も在籍しており、0.3mmクラスの繊細な刃物を駆使しながら数十時間をかけて完成させていく。

 次にこの樹脂モデルからゴムで型取り、さらに今度は石膏を流す。ここまで準備が整った上で、この石膏の型に750度まで熱したアルミニウムを流し入れていく。同社では品質が安定している低圧鋳造を採用しており、時間をかけて少しずつ流し込んでいくのが特徴。鋳造を終えた後に冷却を行い、最後に細かいピンホールや傷をレーザーで修復して仕上げる。

サイドプレート

 一方、サイドの工程は設計データを基に、NC旋盤機で加工し、細かい修正や傷の修復などは人間が行う。マッドテレーンタイヤなどはサイドウォールにも複雑なパターンが刻まれており、機械を24時間稼働させても完成するまで14日間ほどかかる。そのため生産能力に対して、いかに効率よく作業を組み合わせていくかが重要となる。

 そしてセクターとサイドプレートをコンテナと呼ばれる機材にセットして、ようやく一つのモールドが完成となる。


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